時間ですが、雑談
サビーナが自身のスマホをポケットから取り出して、時刻を確認した。
「むむむ。もうこんな時間か。早いな、もう」
そして、再びゴパルに顔を向けた。
「そうそう、ゴパル君。明日なんだけど、ルネサンスホテルでやってる生ゴミ処理の状況を、ポカラ工業大学のディーパク先生に見せるのよ。午後の予定なんだけど、あんたも来る?」
ゴパルが頭をかいた。
「すいません。明日の朝一番でアンナキャンプへ戻る予定です」
サビーナが軽く肩をすくめて了解した。
「そう。ポカラへ呼びつけたのは、あたし達だしね。長く引き留めるのは良くないか。分かったわ。彼には、あたしとギリラズ給仕長とで説明するから安心して」
そういえば、とゴパルがカルパナに聞いた。
「カルパナさん。生ゴミボカシですが、やはり直接畑に使うと、トマト以外の作物でも肥料焼けを起こしますか?」
カルパナが遠慮しながらうなずいた。
「はい。かなり強い肥料という印象ですね。果樹も含めて、作物の根に直接触れないように使う工夫が必要だと思います。特に、ヤシの木には慎重にしないと、確実に枯れてしまいそうです」
サビーナが少し驚いているので、カルパナが穏やかに微笑んで話を続けた。
「大丈夫よ、サビちゃん。注意して使えば済む話だから」
そう言ってから、ゴパルに二重まぶたのパッチリした目を向けた。こちらは真剣な視線に変わっている。
「ゴパル先生。生ゴミの原型が残っているので、これは何とかした方が良いですね。骨は削岩機で粉砕できますが、その他はミンチ製造機を使って潰したらどうでしょうか」
ゴパルが素直に同意した。
「そうですね。見た目は大事ですよね。ミンチ器械は良い案だと思います。それを使えば、粉状やペレット状に加工できますよね」
カルパナが同意したのを見てから、サビーナに顔を向けた。
「サビーナさん、ディーパク助手さんに、その案を提示してはどうでしょうか」
サビーナが即答した。
「分かった。ラビン協会長にも伝えておくわね。ミンチ製造機械だったら、ホテル協会が出資している、空港そばの精肉工場で使ってるのがあるのよ。それを借りて実験できるはず」
ゴパルが頭をかきながら謝った。
「すいませんね、サビーナさん。私は微生物屋なので、機械化については疎いのですよ。この先の展開は、私では厳しくなります。ディーパク助手さんに任せますよ」
サビーナが、ポンポンとゴパルの肩を叩いて微笑んだ。
「ここまでしてくれただけでも十分よ。後はあたし達に任せなさい。で、他に注意すべき点はあるかしら?」
ゴパルが軽く腕組みをして、少しの間考えた。
「……そうですね。粉状やペレット状に加工する前に、加熱して水分を蒸発させると思います。ペレットの水分量って、確か十%台だったかと」
ペレットというのは、粒状に固めた状態を指す。粉状では、畑に撒いた際に風に乗って散逸してしまうのだが、粒状であれば、そういう心配は不要になる。
「その際に、温度が五十度以上になると、KL構成菌が死滅します」
「その話ですが、本当でした。お湯でKL培養液を仕込んでみたのですが、失敗してしまいました」
カルパナが口元を緩めて失敗談を話してくれた。サビーナとカルナは普通に聞いている。
ゴパルが頭をかいて、カルパナの実験にコメントした。
「すいません。詳しく言っていませんでしたね。凍結温度以下と、五十度以上にはならないように注意してください。ありふれた菌ですので、温度に弱いのですよ」
サビーナが口元を緩めた。
「低温殺菌の温度が六十度なのよね。五十度以上は危険っていうのも分かるわ」
カルパナは、まだ驚いたような表情をしている。
「堆肥の切り返しの目安温度が七十度以上ですので、もしかすると大丈夫かなと期待したのですが。そうですか……繊細な菌なのですね」
カルナは興味津々の表情だ。
「へえ……菌って面白いのね」
ゴパルが冷静にうなずいた。
「ですね。分からない事だらけですよ。あ、話が途中でしたね。ええと、高温処理をした後で再度、KL培養液と糖蜜を散布して、粉やペレットを再発酵させるという方法が良いと思います」
スマホにメモを取ったサビーナとカルパナが、揃ってうなずいた。
「了解したわ、ゴパル君」
「再発酵ですか。なるほどです」
ゴパルがニッコリと笑った。
「はい。粉状やペレット状になっていると、扱いやすいと思いますよ。ディーパクさんには、後で私からもメールで説明文を送ります」




