試食
ゴパルが早速イスに座って、ナイフとフォークを手に持った。まず最初に、鶏の腿肉にナイフを入れている。
サビーナが少し呆れながらも二重まぶたの目を細めた。
「いきなりメインディッシュからか。ま、その方が男の子らしくて良いわね」
コホンと小さく咳払いをしたカルナが、ナイフとフォークから手を離して、スプーンを持った。トマト煮をすくって口に運ぶ。
「で、ですよねー。ゴパル先生、がっつき過ぎ」
戸惑って、腿肉をフォークに刺したままで、あうあう言っているゴパル。そんな彼に、カルパナがクスクス微笑みながら助け舟を出した。
「お肉は温かいうちに食べた方が美味しいですよ。トマト煮は少々冷めても大丈夫ですから、お好きな物から食べてくださいな」
ほっとした表情のゴパルが、腿肉を口に運んだ。
「そ、そうですよねー。黒カルダモンの香りが素晴らしいですね。甘い香りなのに香ばしくもあって。鶏肉も美味しいですよ」
サビーナがフルローティをかじりながら、ニヤリと笑った。
「それ、半分くらいカルナちゃんのせいだから。焦げの香りも含まれてるわよ」
カルナがトマト煮を食べながら、ジト目になった。
「分かったわよ、もう。こんな使い方をするなんて考えてなかったんだし。うわ、美味い」
トマト煮をさらに三口ほど口に運んでから、話を続ける。
「フルローティに混ぜたり、菓子の上に振りかけたりする程度なのよ。他には香辛料煮込みに加える程度ね。こんな主役として扱う事は無いもの」
そんな話を半分以上、聞き流していたゴパルが、次にフルローティに手をつけた。こちらは手づかみだ。
右手だけを使って器用にちぎって食べる。パリパリと音がした。
「絶妙な揚げ具合ですね、さすがサビーナさん。この軽い音が楽しいのですよね。こちらも黒カルダモンの香りがして美味しいです」
サビーナがドヤ顔をして、鶏の腿肉を食べ始めた。
「この歯応えが無いと、フルローティとは呼べないものね。今回は食事用にアレンジしたけれど、お菓子用にするなら、シロップなんかを中に含ませたりするわね」
サビーナが満足そうな笑みを浮かべた。
「ん。腿肉も良い火加減になってる。ローストだったら、この黒カルダモンでも使えそうかな」
カルパナもフルローティとトマト煮を食べながら、感心している。
「私が料理しても、ここまで美味しくならないのよね……火加減って大事なのね。ティハール大祭に向けて、練習しておこうっと」
カルナが鶏の腿肉を、ナイフとフォークを使って食べ始めた。すぐに目をキラキラさせている。その様子を見てから、サビーナがカルパナに視線を向けた。
「ナスのトマト煮だけど、欧米人もインド人もナス好きってあまり居ないのよね。料理としては、こんな付け合わせになってしまいがちかな。肉の方が人気だし」
カルパナも少し考える仕草をした。
「そうよね……それに、ナスはもう収穫終わりの時期なのよ。これが今年最後の露地ナスかな。ハウス栽培しているナスは、まだ出荷できるけれど」
へえ、そうだったんだと聞きながら、トマト煮をパクパク食べているゴパルだ。ナス煮込みに使われている硬質チーズにコメントした。
「このチーズは、リテパニ酪農産ですよね。ポカラの雨期は湿度も気温も高いので、熟成させるのに苦労しているのでしょうね」
カルパナが、ようやく腿肉を食べながら素直にうなずいた。
「レカちゃんの話では、そうですね。今はチーズ専用庫に入れて熟成させているそうですが、容量が小さくて量産は無理だと言っていました」
サビーナがセルローティを食べ終えて、鶏の腿肉をパクパク食べながらうなずいた。
「硬質チーズの熟成って、最低でも一年間は必要だしね。一年分のチーズを保管できないと、商売にならないのは、しんどいわよね」




