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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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鶏もも肉のロースト 黒カルダモン風味 他

 種苗店の倉庫から出て、そのままパメの家まで皆で歩いていった。カルパナの弟夫婦は不在だったので、使用人に挨拶して一階の調理場へ向かう。


「さて、それじゃあ始めるかな」


 サビーナが持って来ていた小さなバッグの中から、紙包みを取り出した。

 それを開けると、半割りになった黒カルダモンが入っていた。彼女が指摘した通り、所々黒くなって焦げている。

 それを取り出して、黒っぽい粒状の種子を取り出した。その種子を調理台の上にある、すり鉢型の石臼オークリに半量入れた。

 それを石の棒ですり潰して、細かい粉状にしていく。石臼なので、すぐに粉になった。それに塩と黒コショウ、他の香辛料を加えて、軽くすり潰した。

 半量残っていた黒カルダモンは、黒い種子だけを取り出した。それを小皿に移している。


 次に、冷蔵庫から鶏の腿肉を取り出した。

「肉は冷蔵庫から出して、すぐに調理すると中の温度が冷たいから表面ばかり焦げてしまうものなのよ」

 肉を常温に戻している間に、ニンニクを皮付きのままヘタだけを切り取り、オリーブオイルを入れた鍋に入れ、オーブンである程度火を通した。途中、焦げ付かないようにニンニクを、ひっくり返す。

 火が通るとニンニクを取り出し、ニンニク風味のオイルで皮付き鶏肉を皮面を下にして鍋に入れて、強火にかけ、焼き色を付けていく。皮面が焼き色が付けば、日を弱め、皮の部分を重点的に焼いているようだ。

 一度、火を強め身の部分を焼き再び火を弱めていく。

「鶏の腿肉が無かったら、他の部位でも構わないわよ。冷蔵庫にあったのがコレだったから使っただけ。カルちゃん、お肉使うわね」

 既に使っているのだが、カルパナがスマホで撮影しながら穏やかな表情で事後承諾した。

「うん、どうぞ使って。ティハール大祭が始まると、お肉を食べる機会が減っちゃうから、今のうちに食べてしまいましょう」


 ダサイン大祭と違い、ティハール大祭では肉料理はあまり食べない風習だ。代わりに花だらけになる。


 焼き色が付いた腿肉を、鍋から取り出して金網の上に置いた。鍋に残っている鶏の脂は、空き缶に注いで捨てている。後で、廃油として処理するのだろう。

 その鍋にヴェルモットのノイリーと、リキュールのペルノーを加えて火にかけた。この酒はよく使うようで、調理場の棚の奥から出してきた物だ。

 サビーナが木ベラを使って、フライパンの底に付いていた焼き汁をリキュールに溶かしていく。

 アルコールが飛んで、焼き汁が完全に溶けたのを確認してから、粒のままの黒カルダモン少量と、粉にした黒カルダモンの半量を加え、弱火にして、水分がなくなる手前まで煮詰めていく。


「これでソースを作るのよ。さて、次ね」

 サビーナがオーブンを起動させた。

 しばらくするとオーブン内部が熱くなり、指定した温度に到達した。

「よし、入れるか」

 天板に乗せた鶏肉をオーブンに入れ、ある程度、火を通す。その後、取り出し、黒カルダモンの粉とコショウをまぶし、再び鶏の腿肉を、オーブンの中へ入れた。

「最初からカルダモンをまぶすと、香りが飛んじゃうからね」

 タイマーを設定したサビーナが、カルナとゴパルに顔を向けて、二重まぶたの黒褐色の瞳を和ませた。

「これっぽちじゃ足りないでしょ。ナスのトマト煮とフルローティも作るわね」

 カルパナがクスリと笑った。

「ティハール大祭向けの動画なら、トマト煮とフルローティの方が本命だけどね」


 サビーナがナスを調理台の上に乗せて、適当な大きさに切って、塩を振った。

「ナスのアク抜きのためね。この間に、フルローティの生地を作るか」


 ネパール語でフルは花という意味だ。なので、花の形を模した揚げパンという事になる。ティハール大祭の時期によく作られる物だ。

 生地自体は小麦粉に適量の香辛料と砂糖を振り、水で溶いただけなので単純だ。これにも黒カルダモンの粉を少量加えた。

「ん。これで生地は完成。ちょっと寝かせるわね。その間に、ナスを炒めましょ」

 フライパンにオリーブ油を入れて火にかけ、ナスを加えた。


 それを見ながらゴパルがカルパナに聞いた。

「レカさんは、今回来ていませんね。何か用事があったのですか?」

 カルパナがサビーナと視線を交わしてから、ゴパルに答えた。

「彼女はネワール族ですから、祭事の手伝いを色々としないといけないようで……いつもは逃げているのですが、今回はお兄さんに捕まってしまったそうです」


 ネワール族の祭事の数は、一年の日数よりも多いと言われている。

 もちろん、レカの家はヒンズー教系のシュレスタ階級なので司祭階級では無い。仏教系では無いのだが、重なる祭事も多いので、それに巻き込まれたのだろう。

 ネワール仏教は密教系なので、基本的に非公開の祭事が多い。

 その話を聞いて、ゴパルにも思い当たる節があった。

「私の上官のクシュ教授もネワール族です。ダサイン大祭の際もそうでしたが、ティハール大祭の期間中も、バングラデシュへ出張する予定ですね」

 ゴパルが微妙な表情になって、軽く腕組みをして呻いた。

「なるほど、祭事から逃げるためだったのか……」

 バングラデシュはイスラム教なので、ヒンズー教や仏教の祭事とは関わりなく仕事ができるのだろう。

 まあネパールに残っても、官公庁や企業の多くが休日になるので、仕事にならないという面も大きい。


 サビーナがナスを炒めながら、軽く肩をすくめた。

「レストランは大忙しだけどね。スタッフの仮眠用に、ホテルの一部屋を用意してもらってる」

 ナスをフライ返しで丁寧に返して、油を吸わせながら炒めていく。徐々に色がつき始めた。

「食材を搬入してくれる人達にも開放してるわ。利用前にシャワーを浴びさせて、衣服を着替えさせて、スーパー南京虫やノミやシラミを部屋に持ち込ませない工夫はしてるけどね。ん、こんなものかな」

 ナスに大まかに火が通ったので、トマトソースを加えて煮込み始めた。

「しばらく煮込んで、最後に塩コショウして、硬質チーズを削ってかければ完成。まだ時間があるから、次にソース作りの続きをするわね」


 サビーナが酒を煮詰めた鍋に、レモン汁を加えて煮詰め始めた。

 残ったレモンは半割にして果汁を絞り、残ったレモンの皮を包丁で削り取り、白い部分は苦いので除いてある。

 その後、形を整え塩水で軽く茹で冷水に漬けて粗熱を取り、水気を切ってある。


「レモンの皮の千切りは飾りに使うわね。今回は黒カルダモンが主役だから、クセの無いソースにしてるわよ。まあ、酒を使いたくない場合は、好みのハーブを加えて煮詰めると良いかな」


 ある程度煮詰まってから鶏のダシを加えて、さらに煮詰めていく。

 続いて、黒い種子を取り出し、残った果皮を包丁の背で叩いて潰した。

 この果皮と、爪を切り落とした足先を小鍋に入れて、弱火で煮詰めていく。黒カルダモンの香りが、調理場に流れ始めた。

 ここで、オーブンのタイマーが鳴った。

「さて、オーブンも時間ね」


 鶏の腿肉をオーブンから取り出して、串を刺して火の通り具合を確認した。

 黒カルダモンの甘い香りと、コショウの香ばしい香りが、調理場により強く充満し始めた。

 ゴパルも納得した様子で、垂れ目を細めて口元を緩めていく。

「なるほど……高級品と呼ばれるだけの香りですね。緑カルダモンとも少し違う香りなのか。美味しそうだなあ」

 垂れ目を輝かせているゴパルと、吊り目を輝かせているカルナに、サビーナが優しく微笑んだ。

「まだ食べるには早いわよ。ちょいと休ませるわね。仮眠させないと肉も美味しくならないのよ」

 鶏の腿肉をアルミホイルで包んで、皿の上に置いた。ポカラは亜熱帯なので、この程度でも冷めにくい。


「肉を休ませている間に、フルローティを揚げますか」

 熱した菜種油に、生地を注ぎ入れて花状に形を作りながら揚げていく。これは単純に生地を揚げるだけなので、すぐに熱々のフルローティが出来上がった。

 それを、クッキングペーパーを敷いた金網の上に乗せていく。


「腿肉の方も仕上げるわね」

 オーブンを点火して高温にしてから、残った黒カルダモン粉の全てと、粒の半量を振りかけた腿肉を入れた。この黒カルダモンは、石臼で粗く潰しただけにしている。

「香りをつけて、皮をパリッとさせるために、高温で焼くのよ。ま、一、二分間焼けば十分かな」

 小鍋をろ過して、煮汁だけを別の小鍋に移した。

「それじゃあ最後に、ソースを仕上げるわね」

 これに、残った黒カルダモンの種子を加えて、さらに弱火で煮詰めていく。

「ここで、種子を入れることで食感が変わるし、とくに種子を口にしたときの香りが楽しめるのよ」

 ソースがまとまったら、火を止め、バターを少量加えかき混ぜている。


 ほどなくしてオーブンのタイマーが鳴り、腿肉を取り出した。皿に乗せてソースをかけていく。

「はい完成。腿肉は熱いから、ナイフとフォークを使いなさい。手づかみだと火傷するわよ」


挿絵(By みてみん)


 ワインやビールは無いので、水をコップに注ぐゴパルである。盛り付けを終えたそれぞれの料理を、カルパナがスマホで撮影した。ニコニコしている。

「美味しそうですね。早速いただきましょうか」

後書き:

鶏もも肉のロースト 黒カルダモン風味の作り方詳細です。Sivaji様が実際に料理してみた際のものですね。Sivaji様ありがとうございました。


材料:

 カルダモン(粉状にしたもの。肉に使う)

 カルダモン(粗く砕いて粒状にしたもの。肉やソースに使う)

 カルダモン果皮(ソースに使う)

 ノイリー 50mL

 ペルノー 150mL

 レモン  1個

 バター少量

 鶏もも肉2枚


作り方:

1)ニンニク皮付きのヘタを取り、オーブンで10分間加熱。その後、ひっくり返して6分間加熱して取り出す。

2)ニンニクオイルで鶏もも肉(以下、肉と表示)に塩を振って、リソレする。

3)肉を取り出し、余分な油を捨ててカラメリゼする。

4)肉を180度のオーブンに入れて、8分間ロティする。

5)鍋にノイリー、ペルノーを加えフランベし、カルダモンの粉と粒を加え、水分がなくなる手前まで煮詰める。

6)肉を取り出し、カルダモンの粉を乗せて4分間ロティする。

7)5)のソースベースにレモン汁を加えて煮詰める。

8)肉をルポゼする。

9)7)のソースベースが煮詰まってきたら、フォンを加えて煮詰める。

10)レモンの皮をむいて整え、塩水で茹で、冷水に落とし水気を切りゼストをつくる。

11)肉表面に粒カルダモンを乗せてオーブンで温める。

12)ソースをパッセして粒カルダモンを加え、塩、胡椒して味を調える

13)ブールモンテしてソース完成。温めた盛りつけ皿を用意し、肉を乗せてソースをかける。後は好みの付けあわせを添える。


小説本文とは違い、ルセット(作り方)ですので、料理の専門用語を使って説明しています。


以上ですね。黒カルダモンが無ければ、通常の緑色したカルダモンを使っても美味しいですよ。

小説の中の写真は、通常の緑色のカルダモンを使用して料理しています。

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