PDA培地 その二
ゴパルが手取り足取りスバシュに教えると、三回目から上手にキノコ片を、ウィスキーボトルのPDA培地の中央に乗せる事ができるようになってきた。
スバシュが目を輝かせる。
「お! 上手くいったぞ」
ゴパルが垂れ目を細めてうなずいた。
「おめでとうございます。もう二、三回練習してから、次の人に交代しましょうか」
そして、スマホで時刻を確認した。
「十五分が経過しましたね。圧力鍋の火を消します。しばらく冷やしてから、取り出しましょう」
次に実習を開始したのはビシュヌ番頭だった。彼にも手取り足取り教えるゴパルだ。カルパナがニコニコしながら眺めている。
「さすが大学の先生ですね。教え方がサマになっていますよ」
ゴパルが照れながら答えた。
「ただの助手ですけれどね」
しかし、それなりに嬉しかったようだ。口調が少し弾んだ調子になってきた。
「キノコ片ですが、PDA培地の上で白い菌糸を生やしてきます」
だが、やはり専門分野が関わっているようだ。途中から、口調が冷静なものになった。
「二週間後、一番きれいに菌糸が張っているボトルを選んで、再度、別のPDA培地を詰めたボトルに移植します。この時は白い菌糸を、五ミリ角程度の大きさに針金で切り取って移植してください」
すぐにスマホで撮影を再開したカルパナに、同じ事を再度説明した。
「すいません、カルパナさん。いきなり話してしまいました」
カルパナがにこやかに微笑んで、スマホを持っていない方の左手を軽く振った。
ちょうどビシュヌ番頭も実習を成功させたようだ。少し興奮気味な声でゴパルに声をかけた。
「どうでしょうか、ゴパル先生」
ゴパルがガラス室の中の様子を見て、満足そうにうなずいた。
「はい、出来ましたね。おめでとうございます。もう二、三回繰り返して慣れてみましょうか」
ビシュヌ番頭が再び真剣な表情で実習を再開したのを見て、カルパナのスマホカメラに振り向いた。
「移植後、さらに十から十五日してから最終確認します。ボトル内部一面に真っ白い菌糸が張っていれば、種菌の種菌として使えます。保管のために冷蔵庫に入れてください」
カルパナが撮影を続けながら、首をかしげた。
「種菌の種菌、ですか?」
ゴパルが素直にうなずく。
「はい。これを基にして、種菌を作ります。PDA培地は作るのが面倒ですからね。小麦等を培地に使って、再度培養した種菌を作ります。これも後日、実習しましょう」
カルパナやサビーナ、それにカルナも実習を終えた後で、ゴパルが圧力鍋のフタを開けた。
「ちょうど手で持てる程度にまで冷めていますね。では、これを取り出して、と」
レカの所で使われていた耐熱グローブを両手にはめたゴパルが、ウィスキーボトルを一つ取り出した。それを綿栓をしたままでゆっくりと傾ける。
「こうしてボトルを傾けて、培地の面積を最大化させます」
斜め四十五度くらいの角度だ。この程度の傾斜角では、最大化には至らないのだが、まあ、そこは適当なゴパルであった。
「後は、このまま自然冷却して寒天が固まるのを待ちます。このまま数日間室温で放置して、カビが生えたボトルは廃棄してください。カビが生えなかったボトルだけを、冷蔵庫へ入れて保管します」
ゴパルがウィスキーボトルを圧力鍋の中へ戻した。
「以上が手順ですね。これでPDA培地を作る事ができますよ」
サビーナがゴパルの肩を軽く叩いて微笑んだ。
「ご苦労さま。それじゃあ、何か作ってあげるわね」




