下山
翌朝、下山する事にしたゴパルであった。早速、協会長から得た時刻表を参考にして、ポカラ行きの小型四駆便の予約を入れたのだが……
「うう。満席だった。やっぱり前日予約は厳しいのかなあ」
がっくりしながらも、しっかりと朝食を摂っているゴパルだ。そんな彼にアルビンが、カロチヤを注いだ小ジョッキをテーブルに置いた。
他にも数名の外国人観光客が、ガイドと共に下山の準備を始めている。
「今は観光シーズン最盛期ですからね。ミニバスならナヤプルから何便も出ていますよ。各駅停車のノロノロ運転ですが、今日中にはポカラへ着けますので心配は無用ですよ」
カロチヤを一気飲みして、気合いを入れるゴパルだ。部屋の鍵をアルビンに渡した。今回は小さなリュックサックを一つだけ肩にかけている。
「分かりました。では、早速出立する事にします」
アルビンは地元民なので、一日でポカラまで行けると当然のように言っているが、ゴパルは疑問に感じている様子だ。
(私の場合は太っているし、道にもまだ慣れていないからね。余裕をもって行動しないとな)
実際、普通の観光客の足では、アンナキャンプからポカラまでは、二日の旅程になるのが標準だ。
そのままの足でアンナキャンプを出立し、アンナプルナ内院の枯れ始めた大草原の中を、速足で下りて行く。
眼前には見上げるような角度で、巨大なマチャプチャレ峰の北壁が見えている。ここから見ると魚の尾の形では無く、黒い三角形の鋭い峰だ。形はポカラ側から見たものと異なるが。
マチャプチャレ峰北壁は、アンナプルナ連峰と尾根で繋がっているので、真っ白い氷雪と黒い岩肌の巨大な壁となっている。アンナプルナ内院の西の壁だ。青空との対比が鮮明で美しい。




