セヌワ
その頃セヌワでは、カルナが叔母達と一緒に、背負いカゴを担いで森の中から出てきた所だった。カルナは野良着姿で、サンダル履きだ。
その腰に巻いたポーチに入れておいたスマホが鳴った。ちょうど電波が届く場所に出たらしい。立ち止まったカルナが、ポーチからスマホを取り出した。
「ん? カルパナさんからだ。何だろ」
スマホを操作して電話に出る。ついでに、真っ直ぐに腰まで伸びている黒髪を片手ですくい上げて、髪についたゴミを払い落とした。
「はいはい、どうかしたの? カルパナさん」
「あ、カルナちゃん。ごめんね、今電話に出ても大丈夫かな?」
首をかしげたカルナが、叔母達にセヌワへ先に戻るようにグルン語で告げ、カルパナに答えた。
「うん。大丈夫だよ。着信履歴が結構あるんだけど、どうかした?」
カルパナが声の調子を少し改めて、真面目な口調になった。
「ゴパル先生から聞いたのだけど、黒カルダモンの収獲が始まったって、本当?」
素直にうなずくカルナだ。背負っている大きな竹編みのカゴを揺すった。
「本当だよ。ちょうど、森で収穫を終えてセヌワに戻った所だけど。それがどうかしたの?」
途端に、カルパナの口調が明るくなった。
「わあ、良かった。サビちゃんが黒カルダモンを探してるの。レストランの料理に使いたいみたい」
カルナの表情が微妙な感じになっていく中、カルパナの弾んだ声がスマホから聞こえてくる。
「少しの量でも構わないから、ポカラまで売りに来てもらえないかな。東ネパールの産地で病気が流行してるみたいで、なかなか買えないようなの」




