お茶くみ小僧
グラスがゴパルの手元に戻された。ついでに、アルビンが飲んでいたチヤのグラスも付いてきている。キョトンとして、二つのグラスを持っているゴパルに、穏やかに微笑むアルビンだ。
「ゴパルの旦那は、ここで見ていてくださいな。作業は、俺達がやっちまいますんで」
「え?」
まだキョトンとしているゴパルを見て、アルビンが少し肩をすくめた。
「小屋の建設とか、やった事ないでしょ。図面があるから、後は俺達に任せてくださいな」
確かにゴパルには、このような小屋を建てた経験は無い。それでも反論しようとするが、あっけなくアルビンに制されてしまった。
「この小屋は、基礎工事もするし、雪室っていう簡易の地下室も作るんですよ。地下室には排水溝をつけないと、水浸しになっちまいます。電気の配線や、水道管、排水管の配置なんかもありますしね」
真面目な口調で的確に指摘していくアルビンだ。
「ゴパルの旦那に、その作業の指揮ができるとは、失礼ながら無理だと思いますぜ」
ぐうの音も出せなくなったゴパルであった。それでも、頑張って口を開く。
「そ、それでは、私も作業員の一員として作業をしますよ」
アルビンが一重まぶたの細目をさらに細めて、細く短い眉を上下させた。
「サンディプの強力仲間が協力を申し出ていますから、人手も十分足りていますよ。基礎工事が終わって、小屋作りが始まったら呼ぶ予定です。ゴパルの旦那にケガでもされちゃ、俺達が困りますんで」
低温蔵は断熱効果の高い、発泡コンクリートのブロックを積み上げて作る方式になっていた。発泡なので、かなり軽量だ。
また、鉄筋の代わりに炭素繊維を樹脂で硬化させたものを使う。どちらも、宇宙エレベータ開発で商品化されたものだ。
屋根も同様の素材を使用しているので丈夫で軽量、特に力仕事が必要な作業にはなっていなかった。
一番大変な作業は基礎工事と、地下室つくり、それに地下室の排水路の掘削だろうか。これも、アンナプルナで共有している電気駆動型の小型バックホーを使うので、ゴパルの出番は無い。
ちなみに、この小型バックホーは、キャタピラ走行の他に、多脚機動もできるオプション付きだ。そうでないと、アンナキャンプまで運べない。
がっくりしているゴパルの肩を、アルビンがポンと叩いて微笑んだ。
「ゴパルの旦那は現場監督なんで、作業記録をつけていてくださいな」
ゴパルが二つのグラスを持ちながら、苦笑した。
「それって、つまり、お茶くみ小僧って事ですね。了解です」
アルビンがニンマリと笑ってうなずいた。
「ついでに、シコクビエの焼酎を熱燗にして、作業の終わりに出してくれると最高ですね。チヤだけでは飽きるんで」
さすがはグルン族である。アルビンも例外ではなかったようだ。




