翌朝のアンナキャンプ
翌日は早朝から低温蔵の建設作業が開始された。ちょうど民宿ナングロの裏手なので、ゴパルが泊まっている部屋から荷物を持ち出すのも容易だ。
その荷物が入っている段ボール箱を一つ開けたゴパルが、目を点にした。
「あれ? これって防寒着だぞ」
ゴパルの隣に民宿のオヤジのアルビンがやって来て、チヤを手渡した。
自身もチヤをすすりながら、箱の中身を確認していく。そして、ゴパルが着ている服装を見て、愉快そうに笑った。
「ゴパルの旦那。箱に入っている防寒着の方が上等ですぜ」
ゴパルが、がっくりと肩を落として、不機嫌そうな表情でチヤをすすった。
「まったくもう……防寒着を買ったなら、そう教えてくれても良かったのにな。ポカラの市場で買い物した時間を返して欲しいよ」
アルビンがチヤをすすりながら、箱の中の衣服を取り出した。ちょっと感心している。
「へえ……国産のアウトドア衣料メーカー、アマダブラムで統一されてますね。あ、メモが入ってますよ」
ゴパルがメモを受け取って、文章を読んだ。
次第にジト目になっていきながらも、それでも律儀にアルビンに説明する。
「クシュ教授のツテで、このメーカーに掛け合ったそうです。それで、長期の着用レポートを出すという条件で、これらの防寒着一式を無料で調達した、と。って事は、私はコレを着る義務があるのか」
ブツブツ文句を垂れ流しているゴパルの肩を、アルビンが軽くポンと叩いた。
「義務なら仕方が無いですね。このメーカーの服は、見ての通り地味でダサくて、強力やガイドがよく着るんですがね。品質はそこそこ上等ですよ。厳冬期以外の季節でしたら、コレで十分でさ」
ゴパルも、防寒着は多い方が心強いので、グチは切り上げる事にしたようだ。顔を上げて、アルビンに視線を向けた。
「そうですか。まあ、せっかくポカラで買ってきたので、時々アマダブラムの服を着る事にしますよ」
そして、このメーカーのロゴマークを見て、思い出したようだ。
「私が技術指導をしていた首都の酒造所の社長も、この銘柄を愛用していました。ですので、品質は大丈夫でしょう」




