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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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早朝の出発

 翌日も、やはり雨だった。荷物を入れたリュックサックを担いだゴパルが、ルネサンスホテルの駐車場から、北の空を見上げる。当然のようにヒマラヤ山脈は見えない。

「普通の観光客でしたら、こんな雨に山歩きなんて、考えないでしょうね。おのれクシュ教授め」

 協会長が、ゴパルから部屋の鍵を預かって、肩をすくめた。ゴパルのキャリーバッグも預かっている。

「仕事ですから、仕方がありませんね。ですが、意外に観光客は多く居ますよ。氷河がある、アンナプルナ内院の民宿からの電話ですと、それほど雪は積もっていないそうです。雨期もそろそろ終わりますから、意外に雨雲は、薄いのかもしれませんよ」


 ホテル協会が運航している、旅行客向けのミニバスがゆっくりと走ってきて停車した。既に、欧米人客が数名ほど乗っている。インド人や中国人の姿は見られない。

 協会長が、少し心配そうな顔でゴパルに聞いた。

「ゴパル先生。本当にガイド無しで大丈夫ですか?」


 アンナプルナは保護地域で、入域者は、必ずガイドを雇うように決められている。しかし、バスの中には、ガイドと思しきネパール人の姿は、一人も見当たらない。恐らくは、バスを降りた先で、ガイドが待っているのだろう。


 ゴパルが、柄にもなく腕を掲げて、力持ちのポーズをとった。やや太っているので、まるで説得力が無いが。

「大丈夫ですよ。こう見えても、私は野外調査を何度もしていますから。学生の話では、複雑な道ではないそうですし。もし迷っても、現地の人に尋ねます。心配は無用ですよ」

 リュックサックをミニバスの荷物庫に入れて、乗り込む。最後に、協会長に合掌して挨拶した。

「では、行ってきます」

 協会長がにこやかに微笑んだ。

「旅路の無事を、お祈りしております」


 ミニバスはその後、ポカラのレイクサイドに入って、あちこちのホテルからの客を乗せていく。あっという間に、十名となり、満席になってしまった。皆、上質なレインウェアを着ていて、登山靴も防水仕様だ。

 どんどん賑やかになっていくバスの車内で、目を点にしているゴパル。

「マジか……雨が降り続いているんだが」


 座席で座り直し、柔らかな背もたれに体を預けるゴパルである。昨日乗った、ポカラ市内を回るバスとは、大違いの乗り心地だ。

 天井から雨漏りはしないし、窓ガラスにも傷がついていない。日除けカーテンの生地も分厚いし、頭上にはエアコンの空調穴が付いている。

 手すりには、スマホ充電用のコンセント穴が付いていて、無線通信も可能という表示がある。ただし、禁煙表示も横に付いているが。

 運転席の横には液晶テレビがあり、海外の英語ニュースを流していた。

 何よりも、穴だらけの舗装路を走っているのに、大きな衝撃を感じない。さらに、エンジン音がしない。電気自動車のようだ。

 軽くため息をつくゴパルであった。

「この格差は、何とかしないといけないな、本当に」

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