キノコ栽培の相談
本当に話が広まる速度が速いなあ、と感心したゴパルが、チヤを飲み終えて話し始めた。
「さすがですね。ポカラでは亜熱帯性のキノコの栽培試験をしていますよ。ヒラタケとオイスターマッシュルーム、それに最近ではフクロタケですね」
キノコの名前をいきなり並べたのだが、理解しているようだ。関心が高いのかな、と思いながら、ゴパルが話を続けた。
「シイタケ栽培は亜熱帯性気候では難しいので、涼しいナウダンダで試験を行う予定です。ちょうどガンドルンと同じくらいの標高だそうです」
ニッキの目がキラリと再び輝いた。
「おう、それそれ。ガンドルンでできそうだったら、ここセヌワでもいけるんじゃねえか?」
カルナが客の注文を受け付けながら、腰まで伸びている真っ直ぐな黒髪をパサリと払った。
「シイタケじゃないけれど、木に生えるキノコだったら、この辺りの森の中にたくさん生えているわよ。今の時期ならアイシメジとか。いけるんじゃない?」
ゴパルが腕組みをして考え始めた。
「ふむむむ……ここは標高2300メートルですよね。しかも、雪が積もる。栽培適地ではありませんが……」
ニッキとカルナの表情が曇ってきたので、対策案を述べた。
「雪や霜よけのゴザを用意できれば、試してみましょうか。微生物学研究室でキノコ専門をしている、博士課程のラメシュ君に後で相談してみますね」
ニッキがニッコリと笑った。
「おう。よろしく頼むナ。ガンドルンの管理事務所本部にチャイ、申請して許可をもらっとくよ。あの事務所長、ゴパル先生を気に入ってるみたいだからよ。許可はすぐに下りるはずだぜ」
(え、そうなのか?)
ゴパルの目が点になっている。彼の態度からして、ゴパルを煙たがっているとばかり思っていたのだが……。
それよりも、今はカルナが言っていた『野生キノコ生え放題』という話に興味を集中した。カルナにキラキラした垂れ目を向ける。
瞬時にカルナの表情が険しくなった。勘が良いようだ。
「カルナさん。ここは野生キノコが多く生えているのですね。時々、ここへ調査に来ますよ。その時は、案内役をよろしくお願いします」
カルナがジト目になった。
「嫌です。ただでさえ忙しいのに。ゴパル先生の趣味に付き合ってあげるほど、私はお人好しじゃないわよ」
「えええ……」
ショックを受けているゴパルの背中を、ニッキが容赦なくバンバン叩いた。ゲホゲホ咳き込むゴパル。
「済まねえな、ゴパル先生。キノコは、毎日森の中を歩き回っていないとチャイ、採れないものなんだよ。他に何かやって欲しい事はあるかいナ?」
ゴパルが反省して頭をかいた。
「そうですね……最初から、あれもこれも考えるのは良くないですね」
気持ちを切り替えた。確かに他にもあった。
「まずは青カビの収集に専念……ですね。うちの研究室の博士課程達がカビと、乳酸菌を同定しているのですが、そろそろ結果がわかる頃です」
実は、ダサイン大祭があったので、その間は研究が事実上停止していたのだった。ゴパルがせっせと自転車を漕いで大学へ通っていたのだが、それでも人手不足は否めなかった。




