セヌワ
ガンドルンを出立して、チョムロンでチヤ休憩をしてからセヌワへ着いたのは、夕方も遅くになってからだった。
ゴパルが、ホテルセヌワの入口の扉に手をかけた。膝がガクガクしている。
「や、やっと着いた……疲れた」
すぐにカルナが出迎えて、口をへの字に曲げ、呆れた表情でゴパルを見据えている。
奥からは、宿のオヤジでカルナの叔父であるニッキが、分厚い手を振って笑いかけてきた。
ゴパルがとりあえず謝った。
「すいませんカルナさん、ニッキさん。また道に迷ってしまいました……」
カルナが、やれやれ……と軽く頭を振った。真っ直ぐに伸びる黒髪の先が、一テンポ遅れて左右に揺れた。
「ガンドルンからだったら、道しるべがあるでしょ。一本道なんだけど。どうやったら迷うのよ」
ゴパルがリュックサックを担いだままで、近くのベンチに腰掛けた。本当に足腰が限界だったようだ。
「途中、菌と野生キノコの採集をしていたのが良くなかったですね。ヒルが居なくなったので、調子に乗って森の中まで入ってしまいました」
ニッキが太く短い眉を上下させながら、一重まぶたの目を閉じて口元を緩めた。
「そういえば、ゴパル先生は学者先生だったナ。忘れてたよ。今日は俺の宿で泊まるんだろ?」
ゴパルが両足をズボンの上からさすりながら、顔を上げてうなずいた。
「はい、お願いします。年間予約しておいた部屋で構いませんよ」
ニッキが頑丈な肩を揺らして笑った。
身長はゴパルよりも五センチほど低いのだが、骨太な体格なので威圧感が結構ある。
「ははは。そりゃあ無理だナ。アンナキャンプへチャイ、運ぶ荷物の置き場になってるよ」
ゴパルが頭をかいた。
「ああ、そうでしたね。荷物はまだ残っていますか?」
ニッキがニコリと笑った。
「サンディプ達が、ほぼ運び上げたぞ。だけど、まだ部屋の掃除が済んでねえんだナ。そんな訳でチャイ、今晩は別の部屋に泊まってくれや。お代は要らねえからよ」
ゴパルが礼を述べて、ブルルと震えた。宿帳に、ゴパルの名前や連絡先等を記入し終える。
「さすがにセヌワまで登ると冷えてきますね。着替えないと風邪をひきそうだ」
ニッキが部屋の鍵をゴパルに投げ渡した。
「温水シャワーが使えるから、汗を流してくれや。チヤを沸かしておくから、後でロビーに戻ってきてくれナ」




