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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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ガンドルンからジヌーへ

 ディワシュが言った通り、ガンドルンまでの土道は、まだ泥沼になっている場所が多かった。

 小型四駆便の窓から、泥沼にはまって転んで故障したバイクを何台か見かけるゴパルである。

(おお……やはり、カルパナさんの申し出を断って正解だったか)

 小型四駆便も泥道なので四駆走行をしているのだが、さすがにオフロード車だけあって、何とか走破している。

 運転手を除いて十人乗っているので、前回同様に車内はギュウギュウ詰めだ。

(今回は、外に出て車を引っ張る必要は無さそうだな。良かった)

 今回の車の屋根には、子牛が乗っていた。ネパールの牛は小さいので、子牛であれば乗せる事ができる。

 他には鶏が数羽ほど、竹カゴに入っていた。米や豆といった食料品も、袋に入った状態で乗っている。


 何度か泥道でスリップしながらも、今回は何とか無事にガンドルンのバスパークまで登り切った小型四駆便であった。車内でほっとするゴパルである。

「ふう……雨具を着て、車を引っ張らなくて済んで良かったよ」

 運転手は今回もグルン族の中年男だったが、ゴパルのつぶやきにドヤ顔で振り向いた。

「ま、雨期が明けたからナ。今日はどこまで行くんだい? ゴパルの旦那」

 ゴパルがリュックサックを背負って、軽く頭をかいた。

「これからガンドルンの、アンナプルナ保護地域の管理事務所本部へ挨拶に向かいます。その後、できればセヌワまで一気に登りたいですね」

 グルン族の運転手が、タバコを取り出して火を点けた。銘柄は『電気』だった。

「そうかい、事務所長はチャイ、堅物だから邪険にされても気にすんナ」

 タバコから紫煙を吐き出した運転手が、ゴパルに「吸うかい?」と、そのタバコを差し出した。

 穏便に断るゴパルだ。回しタバコの習慣があるので、それに倣ったのだろう。軽く肩をすくめた運転手が、ゴパルに告げた。

「そうだ、コレを言っておかないとナ。ガンドルンへ行く道が、少し崩れてるぞ。ポカラへ戻る時はチャイ、下のジヌーの道を使った方が安心だぜ」

 それを聞いて、ゴパルが礼を述べた。

「情報ありがとう。ポカラへ戻るのは、もう少し先になるけれど、ジヌーに寄る事にしますよ」


 ガンドルンのバスパークには、他に数台のミニバスも停車していた。泥まみれだが、きちんと坂道を上ってきているんだなあ、と感心するゴパルだ。

「でも、やはりカルパナさんのバイクでは荷が重かっただろうな。さて、ガンドルンへ向かうとするか」

 バスパークには茶店や食堂、それに民宿もあるのだが、ここはチヤ休憩せずに先を急ぐ事にする。

 道が少し崩れているという情報が気になる様子だ。そして、その危惧は概ね当たっていた。

「うむむ……確かに、雨期の最中に通った時よりも、道のデコボコが酷くなっているような気がする。道に割れ目も走っているし」


 ガンドルンへ向かう道は、舗装や砂利道では無く、ただの土道だ。基礎工事も何もしていないので、デコボコになる。

 前回通った際にも、途中にガッサリと山肌が抉られた場所があったのだが、その場所がさらに抉られていた。

 小規模な土砂崩れが発生していたようで、百メートルほど下にある段々畑のいくつかが、新しい土砂と岩塊に飲み込まれていた。

 数個の岩は、そのまま段々畑を転がり落ちて、谷底のモディ川のほとりに留まっている。

 道は断崖絶壁を横切るように延びているのだが、路肩の崩落は前回よりも増えていた。道幅が二メートル未満になっている場所も多くなっていた。

 今は観光シーズンなので大勢の欧米人観光客が、この道を通ってガンドルンへ向かっているのだが、道の悪さに文句を言っている人ばかりだ。


 ゴパルも彼らと一緒に道を歩きながら、同意するしかなかった。道の先に尾根があり、ガンドルンの民宿の屋根が日の光を反射しているのを見上げる。

「普通なら、通行止めになるよね。っと、暴れ馬がやって来たぞ」

 幅二メートル程しかないデコボコ土道の先から、荷駄用の鞍を付けた馬が一頭、鼻息も荒く走り下りてきた。首に大きな鈴をつけていて、その鈴がガランガランと鳴っている。

 たちまち、周囲の観光客や、ネパール人ガイド達がパニックに陥った。といっても、逃げ場が無いので右往左往しているばかりだ。

 落差百メートルもある切り立った崖を登ったり、下ったりできる忍者のような者は、あまり居ない。


 ゴパルは慣れているようで、切り立った崖にピタリと身を寄せた。その横を暴れ馬が走り抜けて、バスパークの方向へ駆け下りていった。

 周辺の観光客やガイド達にも、特に負傷者は出ていないようだ。ほっとするゴパル。

「まあ、ネパールの馬はチベット系だから小さいしね。人間に体当たりはしないよ」


 暴れ馬が走っていった先では、新たに悲鳴や怒号が巻き上がっていた。

 その様子を眺めていると、荷駄隊の男が、必死の形相で何か喚きながらバスパークに向かって駆け抜けていった。

「ヒンディー語か。インドからの出稼ぎじゃあ、馬追いは厳しいよねえ」

 道はまだ観光客やガイド達で混乱しているので、ため息をついて軽く背伸びをした。周囲を見渡すと、以前に立ち寄った茶店があった。

「仕方が無いな。バザールの無いシャウリバザールの茶店で、ちょっとチヤ休憩でもするか」

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