まずはナウダンダへ
カルパナのバイクの後部荷台に乗って、十月の秋風の中を走っていく。
ポカラの町は亜熱帯性気候なので、木々の変化は大して見られないのだが、稲刈りを済ませた田が増えて、それに伴って空き地が増えてきていた。早速、牛や水牛が放牧されている。
丈夫な木の棒を田に打ち込んでいて、それに太い縄を結び付け、家畜が逃げないようにしている。
ダムサイドやレイクサイドでは、欧米人観光客の姿がかなり目立つようになっていた。他にはインド人と中国人の姿が見える。
その一方で、住宅地に入るとネパール人しか歩いていない。
舗装がはげ落ちて穴が開いている道路を、スイスイと回避して走り抜けていくカルパナだ。ついでに何台かのインドから来た車や、市内バスにトラックを追い抜いていく。
ヘルメットには小型の無線機が付いているので、支障なく会話ができていた。
「ゴパル先生。パメの家の生ゴミボカシも順調です。土ボカシ作りが上手くいけば、パメやチャパコット、それにナウダンダの農家にも知らせてみますね。肥料作りで副収入が期待できるかもしれません」
ゴパルが微妙な表情になって、曖昧に返事をした。
「そうなると良いのですが……確か、バッタライ家が治めている地域の農家さんって、バフンやチェトリ階級ですよね。食べ残しに触れるのは禁忌なのでは」
カルパナが明るい口調で答えた。
ポカラ市内を抜けて、サランコットの丘の北側に広がる大きな水田地帯に出て、真っ直ぐに西に向かって走っている。ここまでくると、田舎の風景が広がっていて、実に牧歌的だ。ここでも稲刈りが所々で済まされていて、空き地が生じている。
「はい。ですので、農家さんの所では、生ゴミボカシが入ったバケツを置くだけに留めます。生ゴミには触れませんよ。熟成場所の提供ですね」
カルパナがヒョイと山羊の群れを回避した。ついでに、道路に飛び出してきた鶏の突撃もかわした。
「バケツは持ち運びができるように、三十リットル程度の容量にすれば良いでしょう。一輪車に乗る大きさですね」
ゴパルの目が点になった。
「なるほど。熟成場所として農家の土地を使うのですね。熟成期間は四週間を設定していますから、場所の確保が必要になるのかあ」
カルパナがヘルメットを被ったままで、軽くうなずいた。
「はい。これなら農家さんが、生ゴミに触れる心配はありません。それに、生ゴミバケツから出る排液を、液肥として使ってもらえます」
ゴパルが感心している。
「なるほどー」
カルパナがクスクスと笑った。水牛の群れを華麗に回避して、ついでにバスを追い抜く。
「土ボカシが上手くいくようでしたら、熟成場所がもっと必要になります。農家さん単位で土ボカシを仕込むのが理想的ですので、その準備にもなりますね」
土ボカシは畑の土を使うので、農家単位で仕込んだ方が効率的だ。
平野部を終えて、サランコットの丘の北斜面をジグザグに登る道になった。カルパナのオレンジ色のバイクは百二十五CCなので、さすがに速度が落ちる。
スピードが落ちてほっとしているゴパルに、カルパナが提案した。走行速度が落ちたせいか、少し口調が重くなっているような。
「この先のナウダンダで、チヤ休憩をしましょうか。ゴパル先生は、まだナウダンダへ行った事がありませんよね」
ゴパルが上り道の両側に生えている、森の木々を見上げながらうなずいた。
この辺りはまだ亜熱帯性の樹木である。大きなシダが目立ち、樹木には地衣類やツタ、それに野生ランの仲間が着生している。
「まだですね。バスの中から見ただけです」
そういえば、スバシュ氏が尾根筋の茶店でチヤを飲んでいるのを見かけたなあ、と思い起こした。




