フクロタケ
クチナシ染料採取のための野外かまどや、土器鍋、その他の道具が片付けられてから、フクロタケの確認作業に移った。人手が足りないので、作業員達と一緒にキノコ菌床を覆っているトンネルを解体していく。
ゴパルが満足そうな笑みを浮かべた。
「うん。良い発生状況です。成功ですよ」
台形に積み上げられた菌床の表面は、白い菌糸でびっしりと覆われていた。その菌床から、数百個ものフクロタケが発生している。
まだ卵型の状態の物から、軸が伸びて割れた卵の殻のような見た目になっている物まで様々だ。
オイスターマッシュルームと少し色が似ていて、卵の殻が割れたような見た目の傘は灰色系統だ。
「数日間で収穫が終わってしまいますので、毎日数回に分けて都度収穫してください。KL培養液の千倍希釈液を毎日散布すると良いでしょう。多少、収穫期間を伸ばせるかもしれません」
カルパナがスラリと伸びた細い眉を、少しだけひそめた。
「私も少し調べたのですが、フクロタケは日持ちがしないそうですね。ホールトマトを作る要領で、水煮にして瓶詰めしてみようかな。乾燥するのは難しいみたいですし」
ゴパルも同じように、少し荒れた眉をひそめて同意した。
「そうですね。水煮が良いと思います。ですが、収穫してその日の内に、料理して食べるのが最善でしょうね」
スバシュがニッコリと笑った。
「では、早速収穫を始めますね。おーい、キノコを摘み取ってくれー。全部だー」
カルパナの命令では無いので、『ハワス』という言葉は出なかった。それでも、黙々と収穫作業を開始する作業員達である。
ちょうどクチナシ染料の作業が終わり、後片付けも済ませていたので、そっくりそのままキノコの収穫作業に移行している。
ゴパルが摘み取った二個のフクロタケを眺めてから、近くで収穫作業を始めた初老の男作業員のカゴの中へ、そっと入れた。
「数日かけての収穫が全て終了した後、廃菌床を堆肥の材料に使ってください。土ボカシの材料として、生ゴミボカシと一緒に混ぜても良いですよ」
カルパナとスバシュが顔を見合わせた。スバシュが少しドヤ顔になってゴパルに告げる。
「キノコ廃菌床は、以前から畑の堆肥と混ぜて使っていますよ、ゴパル先生」
カルパナが穏やかな笑顔で続いて話した。
「分かりました。では、土ボカシ作りに混ぜてみますね」
スバシュが、ゴパルに今後の段取りを提案した。
「ゴパル先生。PDA培地の機材ですが、パメの種苗店の倉庫内で組み立てましょうか」
手に汚れが付いていたようで、ズボンを叩いて払い落して、話を続けた。
「いくつか他に買い物をしないといけないみたいなんで、ゴパル先生がポカラへ戻ってきた日に、PDA培地を作りましょう。素人なので、初歩から教えてください」
ゴパルが気楽にうなずいた。
「はい、喜んで」
アンナキャンプまでの道中や、低温蔵の建設を監督する合間に、ラメシュから機材の説明を受ける必要があるだろうなあ、と思うゴパルであった。
ゴパルも専門家なのだが、機材の用意をしたのはラメシュだ。機材を使う上でのコツというものがあるので、その点を聞いておく必要がある。
カルパナが満足そうな笑みを浮かべて、ゴパルに告げた。
「これでヒラタケとオイスターマッシュルーム、それにフクロタケまで栽培実験が成功しましたね。次はシイタケの番ですね」
ゴパルが頭をかきながら垂れ目を細めた。
「シイタケは原木栽培になりますね。ポカラでは暑いので、カルパナさんが提案した通りに、涼しいナウダンダで実験しましょうか」
カルパナが、パッチリした二重まぶたの目をキラキラさせた。
「はい。場所はもう押さえてあります。エリンギ栽培やマッシュルーム栽培の予定地も考えていますよ」
ゴパルが両目を閉じて、両手を振った。
「そう急がないでください。一つ一つ進めていきましょう」




