堆肥場
パメは、南側にはフェワ湖に注ぐ川があり、北側にはサランコットの高い丘が迫る、小さな丘の上にある。西側には山からの沢が走り、東側には段々畑が連なっている。
その一つの段をビニールハウスで囲んで、堆肥場が作られていた。ピックアップトラックが進入できる土道を、歩いて上っていくカルパナとゴパルである。
今は雨が止んでいるとはいえ、いつまた降り出すか分からないので、二人とも傘を持っている。
実際、段々畑の連なる、標高千六百メートル弱のサランコットの丘は、頂上と尾根付近が、分厚い雨雲に覆われたままだ。
土道は泥の川になっていたが、山側の路肩は草が多く生えているので、その上を歩いて上っていく。
やはり、この時期は吸血ヒルが湧いているので、時々立ち止まっては、靴やズボンについたヒルを引き剥がして、踏み潰す。生かしておくと、血を吸ったヒルが卵を産んで孵化し、数日後には数十倍に数が増えるためである。
カルパナがヒルを白い長靴で踏み潰しながら、ゴパルに苦笑いの笑みを向けた。
「山羊や水牛に牛が放牧されていますので、あまり意味は無いのですけれどね」
ちなみに、孵化して間もない吸血ヒルは、数ミリほどしかない。普通の靴下程度では、生地を突き抜けてしまう。そのため、定期的に脱いで、素足の状態を確認する必要がある。地元の農家は、それが面倒なので、最初から素足にサンダルでいる事が多い。ノーガード戦法だ。
ゴパルは、目の細かい化繊の靴下をして、軽登山靴を履いている。それを見たカルパナが、軽く首をかしげた。
「その靴下は、ヒル除けに効果的なんですか?」
ゴパルがヒルを靴で踏み潰しながら、頭をかいた。
「私も時々、野外調査に出ているのですが……まあ、それなりの防御効果ですね。完全ではありませんよ」
カルパナが微笑んだ。彼女はレインスーツのズボンを、白い長靴に被せて、しっかりと隙間なくシールしている。
「私はストッキングを二、三枚重ねて履いています。マダニ除けにもなりますよ」
しかし、男のゴパルには、それは少々難しそうである。
堆肥場は、周囲の段々畑でナスやウリ、ニガウリ、トウモロコシ等が栽培されている中にあった。カルパナが、ナス畑を指さす。
金網製の筒が、いくつも並んで立っていて、三本の支柱で支えられている。金網の幅は一メートル、長さは二メートルほどの物を丸めて筒状にしているようだ。筒の中には、生ゴミと土が交互に入っている。
「生ゴミ堆肥です。その日に出た生ゴミを毎日、筒に入れています。入れた後に、土を五センチくらいの厚さでかけます。筒が一杯になったら、筒を外して、スコップで切り返して混ぜて、そのまま畑の上で熟成させます」
そう言われてみると、畑のあちらこちらに、山になった土状のモノがある。ゴパルが冷静な表情で、それらの土山と筒を見下ろした。
「カルパナさん。この方法ですと、ハエや悪臭が発生しませんか?」
カルパナの表情が曇った。
「そうなんですよね……。野犬や山羊が生ゴミを食べてしまう問題もあります。それに何より、畑の中に、肥料が効きすぎる所と、効いていない所とが生じてしまうのが問題ですね」
肥料が効きすぎても、効かなくても、作物の生長が思わしくなくなり、病気にかかる場合があるのだ。
カルパナがハウスの入口を開けた。鍵は付いておらず、簡単な引き戸になっている。
「では、堆肥場をご覧ください」




