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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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チヤ休憩

 チヤをすすってテレビを見ていた、二十代後半の男が、ガラスコップをテーブルに置いた。そのまま、ソファーから立ち上がる。何気ない表情と動作で窓に近寄り、アルミ製の窓枠に指を当てた。

「……窓枠から、雨水が染み込んでは、いないようですね。クシュ教授」

 教授と呼ばれた五十代後半の男が、ソファーにちょこんと座りながら、チヤをスススとすすった。空いている左手で、ソファーの穴からスポンジを引っ張り出している。

「アサール月の後半の雨は、なかなかに厳しいものだからねえ」


 ネパールでは西洋の太陽暦ではなく、独自のネパール暦を公式に使用している。概ね、西洋の太陽暦と同じ日数の暦で、西洋の暦の毎月十五日前後が、ネパール暦の毎月一日に該当する。なので、教授が言ったアサール月の後半とは、西洋の太陽暦では、七月十五日より後という意味になる。

 余談だが、ネパールは独自の国際時刻も有している。インドとは十五分の時差がある。こんな三十分未満の時差を設けているのは、ネパールくらいのものだ。


 他の二十代前半の男スタッフ三人も加わって、窓枠の雨水漏れの有無を調べ始めた。

 その後ろ姿を見ながら、再びチヤをすすった教授が、テレビ画面に視線を戻す。ちょうど、政治家の発言や動向のニュースが終わり、次のニュースに移ったところだ。

 そのニュースの記事見出しを見た教授が、軽くため息をついた。

「やれやれ……。停電時間が延長になるのかね。ゴパル助手も見てみなさい」

 教授にゴパル助手と言われた、二十代後半の男スタッフが、窓枠の調査を止めて顔を向けた。

「はい、クシュ教授。停電は、私達にとっては大いに気になりますね」


 ゴパルが、他の三人の二十代前半の男スタッフに、窓枠と天井からの雨漏りの調査を続けるように指示を出した。そのまま、いそいそと居間のテーブルに戻る。

 置いておいたチヤの入ったガラスコップを、人差し指と親指とでつまみ上げた。そして、教授と同じようにスススと小さな音を立てて、チヤを少しすする。

「去年は、十七時間停電という悪夢が起こりましたし……」

 ゴパル助手は、身長が百七十センチほどあり、少し太めの体型だ。まあ、研究者なので運動不足なのだろう。この五人全員そうなのだが、あまり外出には適していなさそうな服装である。やや丸めの顔には、少し荒れ気味の眉が乗っていて、その下の垂れ気味の黒褐色の瞳を強調している。

 そのゴパルが、ニュースを聞くうちに、少々呆れた表情になって、目を軽く閉じた。

「水力発電所が、洪水で詰まってしまいましたか……」

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