ヘビメタバンド
サビーナがフンと鼻を鳴らして、コメントを吐き捨てた。
「ド下手バンドだけどね。歌の歌詞も下品だしっ。バンド名が『バドラカーリーのヒモ』とか、全方面にケンカを売ってるから、いつまで経っても金欠なのよ、バカ兄っ」
カルパナは一人ニコニコしている。小声でゴパルに告げた。
「隠者様は、大笑いしていましたけれどね。コンサートにも出かけていますし。おかげで、私やサビちゃんの両親や親戚も、渋々黙認している状況です」
ゴパルも口元を緩めっぱなしだ。この表情は反映されている。
「それにしても、酷いバンド名ですね。ヒモではなくて聖紐でしたら、まだ言い訳ができたと思いますが」
ヒンズー教徒の高位カーストの男子は、祭祀に臨んで白い紐を肩にかける。これを聖紐と呼んでいる。ゴパルのような酒飲みカーストでは、この紐をかける事はできない。
とはいえ……まあ、カーリー神も、化身のバドラカーリー神も女性なので、ヒモが付いても不自然ではない。人妻だが。
そのようなやり取りを横目で見ていたスルヤ教授が、小さく背伸びをして厨房の出口へ足を向けた。
「ディーパク助手、今日はまだ他にも仕事が残っているから、さっさと済ませて大学へ戻ってくるようにな」
クシュ教授も、ゴパルに同じような口調で告げた。
「ゴパル助手、今日は機器の操作プログラムの修正が最優先だから、さっさと済ませてくるようにな」
そして彼も、テレビ電話の接続を終了した。同時に彼の静止画像も消滅する。
ゴパルが一息ついて、軽く首と肩を回した。
「さて、と。やっと静かになった」
無言で頭を振っている博士課程のラメシュ達だ。この頭振りは、激しく肯定という意味である。
残ったのはゴパルの静止画像だけになった。
「それじゃあ、調整してみるかな」
ゴパルが、静止画像の更新頻度を三秒に一回に変更した。これで、かなり準リアルタイムでの通信に近づいたようだ。
「カルパナさん、クシュ教授が退出したので、通信負荷を上げてみました。受信状況はどうですか?」
カルパナが少し間をあけてから、明るい声で答えた。
「あ、大丈夫ですね。これでゴパル先生の表情と言葉が一致しやすくなります」




