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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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微生物学研究室

 今は昼のニュースが、備品の液晶テレビで放送されていた。国営放送なので、アナウンサーは背広にネクタイを締めた装いである。ただ、ネパール特有の帽子であるトピを頭に被っている点が、他の国とは異なるだろうか。

 トピは、短い筒状のツバ無し帽子で、筒の頂部をピンと立てて頭に被る。伝統的な柄は、赤と白、黒等の単純な模様を組み合わせたもので、何となくモザイク画のようにも見える。

 アナウンサーも、この伝統的な三色柄のトピを被っていた。彫りの深いインド系の顔と、コイララという姓からして、ヒンズー教徒でも上位カーストの、バフン階級の出身だ。そのアナウンサーコイララが、トップニュースとして、政治家の動向や言動を伝えている。


 ちょうど休憩時間なのか、研究室内に居る五人の男スタッフが、お茶を飲んで寛いでいた。五十代後半が一人、二十代後半が一人、他の三人は二十代前半のようだ。この五人は共に、薄汚れて擦り切れた長袖シャツとジーンズを当然のように着て、ゴム長靴を履いている。

 ちなみに、ドアの外に掲げている、立ち入り禁止の札を回収するつもりは、みじんも無い様子である。

 五人の男スタッフ達の手には、持ち手のないガラスコップが収まっていた。洗いすぎて擦り傷が無数について、結果的に磨りガラスのような見た目になっている。

 そのコップには、熱々のミルクティーが満たされていた。いわゆるインドのチャイと呼ばれる煮出し紅茶で、ネパールではチヤと呼ばれている。

 特に茶道のような作法は無いのだが、湯気が立って、熱いうちに飲むのが正しいとされている。なので、人差し指と親指の二本だけで、コップの上端を持って、器用に口に運んですすっている。この部分が最も熱くない。


 居間からは、まるで掃除をしていない窓ガラスを通して、外の景色が見える。しかし、今は雨期の最中なので、雨に煙る古都バクタプールの、赤黒い街並みと瓦が見えるばかりだ。その分、古都を囲む山々の緑は、生命の力に溢れてきているようだが。空は分厚い雨雲で覆われているので、当然ながらヒマラヤ山脈はカケラも見えない。

 再び雨が強まってきたようだ。汚れのせいで、半分ほど曇りガラスになっている窓に当たる雨音が、バタバタと聞こえてくる。天井からも、雨の当たる音がかすかに聞こえてくる。冷蔵庫等の機械のモーター音が大きいので、チヤをすするような寛いだ時間以外では聞こえないような、かすかな音であるが。


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