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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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ヤブツバキ

 五分後、テレビ電話が再開された。プログラムの修正を続けていたゴパルが、チヤをすすりながら手を休める。既に、彼のイスの背後には、ラメシュ達もやって来ていた。彼らもチヤを手に持っている。

 クシュ教授も、何か一仕事を終えた様子で、指を鳴らしながら静止画像を送ってきた。

 カルパナが最初に、ヤブツバキの林を画面に映し出した。

「お待たせしました。再開しますね」

 ゴパルが力なく笑った。

「あはは……今日もアンナプルナ連峰は雲の中ですか。マチャプチャレも見えないなあ」

 カルパナが申し訳なさそうに、北の空を見上げた。

「さすがに、強い雨は降らなくなりましたよ。来週からは、アンナプルナ連峰を見る事ができるはずです」


 ヤブツバキの林はチャパコットにあり、画面にはサランコットの丘やパメの集落が遠景で映っている。

「パメにも林があるのですが、収穫が終わってしまいましたので、チャパコットの林にしました。ここも、すぐに収穫を始める予定ですよ」

 ゴパルが首をかしげた静止画像になった。

「ん? 位置情報ですと、花卉かきのハウス棟とは別の場所なんですね。西斜面になるのかな?」

 カルパナがバイクのハンドルに、ヘルメットをかけて固定した。バイクに乗って、ここまで走って移動してきたようだ。作業員も既に数名待機しているのが、画面から見える。

「そうですね、ゴパル先生。ヤブツバキは病気に強いので、日の当たりにくい西斜面に植えています。あ、ええと、林は山の北斜面にあるので、北西斜面という事になるのかな。雨期の間はヒルだらけで大変です」


 カルパナが早速、ヤブツバキの林の中へ入って、状況を見て回った。今は雨が上がっているせいか、ヒルの数は少ない。ヒルを摘んでは足で踏み潰し、林の中を歩いて行く。

「放牧山羊や水牛を入れないように、柵で囲んでいるのですが、それでも森ネズミなんかが居ますので、ヒルの数が、あまり減りませんね」

 ゴパルが、首をかしげた静止画像のままで答えた。

「そうですよねえ。乾期になったらなったで、ダニが活発化しますし」

 カルパナがヒルを踏み潰しながら、スマホ画面に微笑んだ。サンダル履きなので、時々、足の指や甲に登ってくるヒルを摘んで潰している。

「ダニは小さいので、面倒ですよね。さて、見回りましたが、これでしたら収穫できそうです」

 カルパナが彼女の後からついてきていた数名の作業員達に、収穫の指示を下した。ハワスと返事をして、一斉に駆け戻っていく作業員達だ。収獲用のカゴや鎌等を取りに戻ったのだろう。


 その姿を見送ったカルパナが、林の薄い木漏れ日の中で、軽く背伸びをした。

「よし……チャパコットも忙しくなるなあ」

 ゴパルが逆方向に首をかしげた静止画像になって、聞いた。

「カルパナさん。ヤブツバキの実って、どのような物なのですか? 見た事が無いので、この機会に見せてくれると嬉しいです」

 カルパナが背伸びを止めて、周辺の枝に成っているヤブツバキの実を物色し始めた。

「そうですね……あ、これが大きいな」


 そう言って、カルパナが木の枝に成っていたゴルフボールほどの大きさがある木の実を、枝からもいだ。それをスマホで撮影する。

 カルパナのスマホには、液晶画面の上端と、背面に一つずつカメラがあるようだ。今は、上端のカメラだけを使用している。

「これがヤブツバキの実ですよ。ちょうど熟れたばかりですね」

 褐色の実で、かなり果皮が分厚い。それがバックリと裂けるように割れていて、内部の種子が見えている。


 カルパナがヒルを踏み潰しながら、穏やかな声で話を続けた。

「こうなっていると、収穫できます。収穫した実から種を取り出して、苗畑用と精油用とに分けます」

 ヤブツバキの実を手のひらの上で転がした。

「精油用は、一週間くらいかけて天日干しをします。種から水分を抜くためですね。その後で、玉搾り器にかけて、椿油を搾ります。後は静置して精製すれば完成ですよ」

 そして、ゴパルに聞いた。

「ゴパル先生。このヤブツバキの林にも、KL培養液や光合成細菌を散布してみましょうか?」

 ゴパルが気楽な表情の静止画になって答えた。

「良いと思いますよ。ですが、微生物だけを散布しても効果は低いですから、煮た大豆や生卵をミキサーにかけて液状にした物と一緒に、散布した方が良いと思います」

 クシュ教授も同意している。

「そうだね、カルパナさん。水の流れを考えて、畑の一番上から散布していけば良いだろう。ヒルの卵も微生物の餌になるから、上手くいけば、ヒルの数を減らす事ができるかもしれないよ」


 カルパナが真面目な表情になって、クシュ教授の話を聞いて、力強くうなずいた。

「分かりました、クシュ先生。培養液の余裕を見て、この林でも使ってみますね。ヒルが少なくなれば、本当に嬉しいですから」

 林の中が騒々しくなってきた。作業員達が準備を終えて戻ってきたようだ。

 カルパナは、他のチャットアプリも同時使用しているようで、その画面にはサビーナとレカからの返信が届いていた。それを見て、スマホ画面のゴパルとクシュ教授の静止画像に向かって知らせた。

「石窯の準備が整ったそうです。では、移動しますね。テレビ電話の再開は、多分、十五分後くらいになると思います」

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