テレビ電話
すぐにカルパナが彼女のスマホを操作したようで、クシュ教授とゴパルの顔の静止画像が、コメント欄の一角に並んで表示された。同時に、これ以上の参加者を認めない状況に設定された。
いわゆる、関係者間だけのテレビ電話という形だ。チャットアプリなので、他の参加者がテレビ電話に加わってくる恐れがある。これで回線のパンクを心配しなくても済む。
今度は一転して、クシュ教授の愉快そうな声が届いた。顔表示は仏頂面のままだが。
「うむ。窓から投げ捨てずに済んで良かったな、ゴパル助手。ええと、初めましてかな? カルパナさん。僕はクシュ・クマール・ジョシ。微生物学研究室のボスだよ。ゴパル助手が、散々に迷惑をかけているようで、済まないね」
実に嬉しそうに話しているので、微塵も済まなそうな口調では無い。
続いて、カルパナが恐縮しながら、クシュ教授に自己紹介をした。
「カルパナ・バッタライです。ゴパル先生には、もう既に十分お世話になっています。酪農場の悪臭とハエが、かなり減ってきていますし、私が作っている堆肥でも、特有の悪臭が減ってきています」
クシュ教授の静止画が更新されて、にこやかな笑みを浮かべた顔に切り替わった。十秒以上経過しての画像更新になっている。回線が細いので仕方がないのだろう。
「ラビン協会長から聞いてはいたのだが、予想以上に美人さんだな。小太りのゴパル助手には、もったいない容姿だわい」
かく言うクシュ教授も、立派な太鼓腹の持ち主なのだが。これについては、特にコメントをしない事にするゴパルであった。
ラメシュ達三人が、ゴパルの背後に駆け込んで来た。そして、キョトンとしている表情のカルパナを、まじまじと見つめるのだが……すぐにラメシュが首をかしげた。
「美人……さん、か?」
次の瞬間、ラメシュが他の二人の博士課程の男達に、派手に突き飛ばされてしまった。小太りの博士課程が慌てて弁明する。
「ラメシュは年下好みの変態なので、気にしないでください! カルパナさんっ。僕はダナ・タパと言います! 今後ともによろしゅう、お願いしますです」
続いて細身の博士課程の男が、ダナの前に滑り込んできた。
「デブはいけません、デブは大食いで非経済ですよっ。財布に優しくないですから、ご用心っ。僕はスルヤ・シャルマです。スルヤは安心安全経済的ですよっ」
クシュ教授が、含み笑いの表情の静止画で、博士課程の三人をなだめた。
「これこれ。若いのは良い事だが、博士の卵なのだから、節度をもった振舞いをしなさい。まるで、雄鶏のようだぞ君達」
さすがに静まる三人の博士課程であった。特にラメシュは、すっかり熱が冷めてしまったような表情をしている。
ゴパルが、小さくため息をついてから、画面の中のカルパナに謝った。
「すいません、カルパナさん。農学部の三階層の研究室は、どこも男ばかりなので、時々、見境が無くなる事があるのですよ」
つまり、三階は隔離層という事になるのであろうか。
カルパナは、面食らった表情をしていたが、ゴパルの説明を聞いて落ち着いたようだ。コホンと小さく咳払いをして、やや固い笑顔をゴパルに向けた。
「ええと……それでは、最初にタマネギの種まきから見てもらいましょうか。これから畑に向かいますので、五分ほど後からテレビ電話を再開しますね」




