バクタプール酒造
翌日、予定通りにバラジュ地区の家を出て、乗り合いバスを乗り継いでワイン園へ向かうゴパルであった。バスに揺られながら、首や肩を何度も回している。
「うう……やはり、昨日の疲れが残っているなあ。バイクの二人乗りは、疲れるよ」
スマホを取り出して、バクタプール酒造の社長とチャットの文章でやり取りをする。バス内なので、電話モードで話しても、やかましいエンジン音で邪魔されるからだ。時間を見て、ほっとするゴパル。
「予定時間より少し遅れるけれど、無事に着けそうだな。ええと、『少し遅れます。現在位置はここです』っと。これで良し」
首都カトマンズ市やバクタプール市は、カトマンズ盆地内にある。盆地は周囲を標高二千メートル級の山々で囲まれていて、主だった山頂にはヒマラヤ山脈を一望できる公園がある。ここではネパール語の表記に従って、山では無く『丘』と表記する事にする。
ここバクタプール市の北東にも、こういった公園があり、丘の名称をとって『ナガルコットの丘公園』と呼ばれている。誰でも自由に利用できる公園で入園料も安い。
そのため、いつも大勢の地元住民で賑わっている。ピクニック客がほとんどだが、酒を持ち込む宴会客も居て、少々騒々しい。
ゴパルは、ナガルコットの丘公園行きの乗り合いミニバスに乗って、途中下車した。
下りた先は、丘の中腹にあるチャリング地区という場所で、南向きの穏やかな乾いた斜面だ。沢沿いには棚田が並び、その他の場所は段々畑が階段状に積み重なっている。
のどかな田園地帯だ。晴れたおかげで吸血ヒルも居ない。
ミニバスを見送ったゴパルが、空を仰いだ。雲がまだ多めだが空が青く、太陽がギラギラと輝いている。緯度としては日本の鹿児島県の南に相当するので、九月中旬でも強烈な日差しだ。
「晴れると暑いなあ。日焼けしないように注意しないと。それと、到着したと、カマル社長に一報入れておくか」
帽子を被り、長袖シャツの襟回りに薄手のタオルを巻く。彼は日焼けしやすい体質なので、うっかりすると、一日で真っ黒に肌が焼けてしまう。
そうなると、顔認証で拒否されて、微生物学研究室に入室できなくなってしまうのだ。実際に、何度か拒否されてしまい、クシュ教授によって白塗り化粧を強制された苦い経験がある。




