食事前の説教
ゴパル父が、自身の皿に食事を盛りつけて席についた。
今日の夕飯は、インゲン豆と、新ジャガイモの香辛料炒めに、ダル、ゴパルが作り置きしたホールトマトで作ったトマトのアチャールだ。
今晩はゴパルとケダルが揃うので、鶏肉の香辛料炒め煮が少量作られていた。骨付きの鶏肉を、一口大に叩き切ってあるので、食べやすそうだ。これに白ご飯が盛られている。
さすがにゴパル父と母は歳なので、ゴパルやケダルほど多く盛りつけていない。ゴパル父が、水が入った金属製のコップを、食卓に並べ終えた。
「ダサイン大祭が近いからな。道が渋滞で混雑する前に、さっさと行って帰って来た方が良かろうさ」
ゴパル母の顔色を伺ってから、ゴパル父が声を小さくしてゴパルとケダルの二人に告げた。
「カブレ町の叔父と叔母達も、ケダルとゴパルが遊びに来るのを楽しみにしているんだよ。お前達は普段、里帰りとかしないだろ。良い機会だから、行ってご機嫌を取ってこい」
ゴパル母も食卓にやって来て、自身の皿を置いた。不機嫌そうなジト目になっている。
「連中のご機嫌を取ったところで、調子に乗って無理難題を押し付けてくるのが関の山よ。掃除を済ませたら、さっさと戻ってきなさい。長居すると、山羊の調達と料理まで強制されるわよ」
ケダルが当然という表情で、フンと鼻息を鳴らした。
「すぐに戻ってきますよ。長居したら、俺の仕事に支障が出ますからね」
ここで軽く肩をすくめるケダル。
「補修業者が怠けていないか、監視しないといけないんですよ。今から補修資材の調達を、始めておかないといけませんからね」
そうして、隣の席についているゴパルを、ニヤリと微笑んで見据えた。
「バイクの二人乗りは、慣れているんだろ。俺のバイクは二百五十CCだから、しっかりつかまっていないと落ちるぞ」
ゴパルが両手を肩まで上げて、両目を閉じた。
「了解。ポカラではバイクの後ろで走り回っているから、大丈夫だよ。あ、そうだ」
何か思い出したようだ。ゴパル母に顔を向けた。
「ポカラから陸送で、トマト一箱と、グアバとスナックパインの詰め合わせを一箱送ったんですよ。料金が着払いなので、すいませんが、支払っておいてください、かあさん。私が家に戻ったら、代金を立て替えます」
ゴパル母が鷹揚にうなずいた。
「金欠なんでしょ。そのくらい私が支払っておくわよ。アンタが立て替えなくて結構。我が家で、一番貧乏なのは、ゴパル、アンタなのよ。親のすねかじりは、すねかじりらしく振る舞っていなさい」
その通りなので、ぐうの音も出せないゴパルだ。
「ポカラ出張中の食費や、領収書の出ない移動費なんかは、自腹なんですよね……ははは」
寂しく笑ってから、ケダルを見つめる。
「と、いう事ですので、また資金援助を頼む事になりそうです。その際は、ご厚情をかけてくださいませ、ケダル兄さん」
が、ケダルとゴパル母とが、不審そうな表情に変わった。ケダルが鋭い視線をゴパルに投げかける。
「おい、ゴパル。陸送運賃は分かったが、二箱分の土産を買った金はどうしたんだ? 確か金欠だったよな」
ゴパルが頭をかきながら白状した。
「実は、カルパナさんに料金を立て替えてもらっていますです……」
おお……このバカは……!
ゴパル父も加わって、頭を抱えている。そして、ゴパル父が咳払いをして、ゴパル母とケダルの激高をなだめた。
「これ以上ゴパルを叱ると、せっかくの食事が冷めてしまう。今は食事をしよう。説教は食事の後だ」
右手で、白ご飯をひとつまみして、自身の額の前に持っていき、神に軽く祈った。他の三人も、その仕草を行う。
ゴパル母が、大きなため息をつきながらも、感心した口調でゴパルに告げた。
「立派な娘さんのようね。後で電話番号を教えなさい、ゴパル。私から丁重にお礼を述べておくわ」




