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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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観光

 協会長とは、ピザ屋で別れて、一人でビンダバシニ寺院へ向かうゴパルであった。ポカラを巡回している市内バスがあるので、それを見つけて乗り込んでいく。

 バス停もあるのだが、基本的にはバスの運転手に『乗せろ』アピールをして、バスを停めてもらい、乗り込む方式が主流である。


 ネパールのバスは、旧式のエンジンを積んでいるのが多い。そのため、電気自動車や燃料電池自動車が、急速に普及している海外と比較すると、まだまだガソリンエンジンやディーゼルエンジン駆動車が多く残っている。今や、旧時代の遺物になりつつあった。エンジン開発や、部品製造も、海外では滞り始めている。

 そんな遺物になりつつあるエンジンを使っている上に、燃料の品質が悪い。エンジンの手入れも適当なので、轟音を上げる割には、大して速度が上がらない。排気ガスも、見事なまでに真っ黒な煙である。排気口からは、どす黒いタールも滴り落ちている有様だ。

 これらの自動車は、インド製や中国製の中古車である。本来は電子制御されているのだが、基盤ごと取り外されている。おかげで、なおさらエンジンの調子が悪い。燃料も粗悪で、ゴミや水が混入しているので、さらに調子が悪くなっている。


 ガオン、グオオン、ブロブロブロロ……ウオオオン!

 バスが車体を盛大に振動させながら、道端を占拠している白い雌牛や、黒い水牛を避けて、ノタノタと走っていく。住宅地の中を走っていくのだが、雨期のせいなのか、アヒルの群れが道路を闊歩している。

 バスの天井も穴が開いているので、水道の蛇口を閉め忘れたような勢いの雨漏りが起きている。

 窓ガラスも、半数ほどは割れたか、盗まれたかされたようで、半透明のビニールシートが代わりに貼られていた。それらも大半は、破けてしまっているが。床にもあちこちに、小さな穴が開いているので、濡れた舗装道路が見える。

(首都では、新型車両への強制転換が進んでいるから、ポカラでも間もなく転換されるだろうな)

 ゴパルが、雨漏りと床の穴を上手に避けて、手すりにつかまる。

 乗客も二十人ほど居て、ゴパルと同じような仏頂面で、手すりにつかまっている。座席もあるのだが、雨漏りが直撃しているので空いている。座席にはノミやシラミ、南京虫等が潜んでいる事が多いので、ゴパルは基本的に座らない主義だ。


 筒状の金属製の缶に入れた小銭をガチャガチャ鳴らしながら、十代前半くらいの男の子が、乗車料金を徴収して回っている。

 ゴパルが行き先を告げると、降りる場所を言って金額を提示してきた。言われるままに代金を支払う。世の中の荒波を、ぶち抜いて生きてきたような、根性の座った表情をしている少年だ。ゴパルが値切り交渉をしても、言い負けるのが見えている。

「直行バスじゃなかったか。仕方がない、少し歩くか」


 料金徴収係の少年が告げた通り、住宅地に丘が見えてきた。その頂上には、白い寺院や塔が建っている。

 ゴパルがバスの車体をバンバン叩いて、下車する意思を運転手に伝えると、すぐに停車した。といっても、完全に停車する訳では無く、歩く程度の速度に落とすだけだが。それでも下車するには十分なので、そのまま飛び降りるゴパルである。ゴパルの他に、数名が同じようにバスから飛び降りた。

 バスは再び轟音と唸り音を上げて、盛大に黒煙を吐き出しながら、ノタノタと走り去っていった。

 傘をさして、丘の上の寺院を目指す事にするゴパルだ。やはり、牛や水牛が、道端に居座っているので、避けて歩いていく。

 体当たりしても、体重差が大きく、ビクともしない。そのため、体当たりや蹴ったりせずに、避ける方が賢明だ。牛の場合は、蹴ったりすると飼い主が怒って、思わぬバトルを演じる羽目になりかねない。警察に訴えても、神聖な牛なので、ゴパルが逮捕される可能性が高い。

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