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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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帰り道で

 その後、カルパナに頼んで、シスワ産のグアバとスナックパインを一箱、さらにトマトも一箱、首都の実家まで陸送してもらう事にしたゴパルであった。

 もちろん、購入代金は次回ポカラへ訪問した際に、ゴパルがカルパナに支払う手筈だ。陸送料金も着払いである。

 カルパナとサビーナに、ゴパルが実家の住所と電話番号、それに父母の名前を教えて、改めて礼を述べた。

「お忙しい所、すいません。でも、もうそろそろ、西ネパールから順に雨期が終わって乾期になる頃ですよね。道路事情が復旧すれば、首都にも中西部や極西部地域からのトマトが届くようになると思います」


 ネパールの地域区分では、ポカラは西部地域に該当する。その西に中西部地域、さらに極西部地域が続く。ちなみに東部は東部地域だけである。


 カルパナがゴパルの実家連絡先をスマホに入力し終えて、穏やかに微笑んだ。

「そうですね。これから野菜や穀物の収穫が本格化します。私も忙しくなりそうです」

 サビーナがスマホをハンドバッグの中に入れて、カルパナに同意する。

「そうね。雨期が終わると、欧米からの観光客が押し寄せる時期になるのよね。ピザ屋と私の店にとって、稼ぎ時になる時期。極西部のダンガディからも、メロンやスイカなんかを買っているんだけど、もう雨期が終わって晴れの日が続いているみたいよ」

 そして、サビーナがゴパルにニヤリと微笑んで、指さした。

「と、いう訳で、ポカラ産のトマトや果物は、次回からゴパル君自身で買いなさい」

 思わず、直立不動の姿勢になるゴパルであった。

「ハワス、サビーナさん、カルパナさん」


挿絵(By みてみん)


 そろそろ、ルネサンスホテルへ戻る時刻になった。今回は、カルパナが店の前で見送る。既に、花や野菜の苗を買い求める客で店内が混雑しているので、ビシュヌ番頭を手伝わないといけない状況になっていたためだった。

 カルパナがサビーナのスクーターの後部座席に座ったゴパルに、微笑みながら手を振る。

「すいません、ゴパル先生。ダサイン大祭が近いので、花を買い求める客が増えていまして……では、来週のポカラ訪問で、また会いましょう」


 ダサイン大祭とは、ヒンズー教の祭祀行事の一つだ。山羊の生血を神に捧げて、肉を料理して食べる。実家に帰省して祝う習慣なので、この大祭時期は、ネパール国内で民族大移動が起きるのが毎年恒例だ。ちなみに、この後しばらくしてからも、ティハール大祭、チャッテ祭等が続く。


 首都ではネワール族のインドラジャトラ大祭も行われる。これは、生神クマリが館から輿こしに乗って出て市内へ降臨し、人々に祝福を授ける祭祀行事である。首相もクマリから祝福を受ける。

 まあ、ネワール族の祭祀は数が多すぎるので、詳しくは書かない。実は、神というよりは仏と呼ぶ方が正確なのだが、生仏はダライラマ等のイメージが強いので、ここでは生神と呼ぶ事にする。

 クマリは幼女でハゲでは無いので、外観からして異なる。ちなみに、インドラ神は雨の神だ。

 レカのシュレスタ家はポカラ在住なので、この首都の祭祀には関与していない。ゴパルのスヌワール家も、首都の外から引っ越してきた外部者なので、首都の祭祀には関わっていない。

 そのため残念ながら、この作品中では、生神クマリはニュース画面上でのみの登場となる。あしからず了解されたい。

 そもそも、彼女は神様なので、関係者であっても、おいそれと会話できるような存在では無い。雰囲気も、キリスト教やイスラム教の聖職者や、霊能力者とは全く異なり、人に優しい印象はかなり薄い。

 初潮を迎えると一般人に戻り、別のクマリが選定される。そのため生神の中でも、神が人間に乗り移った状態と考えるのが自然だろう。

 一般人に戻った元クマリは、人間社会への適応でかなり苦労するそうだが、本編では残念ながら登場しないので、これもあしからず。この時代では、クマリは首都とパタン地区、それにバクタプール市内に一人ずつ存在している。少々余談が過ぎたので、本編に戻ろう。


 ゴパルもヘルメットを頭に被り、スクーターの座席後端部分を手でつかみながら答えた。もうすっかり、バイクに乗った際には、後端部分を持つ癖が身についているようだ。

「はい、カルパナさん。私も首都に戻ると、ワイン園の視察をします。去年仕込んだワインを、そろそろ出荷するそうですので、その状態を確認します。それが終われば、またポカラへ出張しますよ」

 ゴパルが曇り空を見上げた。

「来週は、天気も晴れて、アンナプルナ連峰を、ようやく見る事ができるかもしれませんね」


 カルパナとサビーナが顔を見交わして、苦笑した。

 サビーナがスクーターのエンジンを点火する。キックスターターも付いているのだが、普段はボタン一発でエンジンを点火させているようだ。百二十五CCエンジンなので、重低音を少し含んだ排気音が鳴る。

 ヘルメットを被ったサビーナが、後部座席のゴパルに、肩越しに視線を投げた。

「甘いわね、ゴパル君。ポカラが国内有数の豪雨地帯って事を忘れているわよ」

 ゴパルが再び天を仰いだ。よく見ると、雲の厚さが結構分厚い。間違いなく、これは雨雲だろう。

「ええ……マジですか」

 カルパナがクスクス笑いながら、ゴパルを励ました。

「晴れる事を、神様にお祈りしておきますね。あ、でもクマリ様は雨の神でもありますね。ちょっと無理かな?」

 一方、サビーナはハンドルを両手で持ち、愉快そうに微笑んでいる。軽くアクセルを吹かして、ヘッドライトも点灯させた。

「ゴパル君は、吸血ヒルに血の供物を結構捧げたから、バドラカーリー様が願いを聞き届けてくれるかもしれないわね。それじゃあ、カルちゃん、また後でね」

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