石窯
石窯と言われても、見た事が無いので、キョトンとしているゴパルだ。菌集めとは無縁の分野である。
「石窯……ですか?」
サビーナが口元を緩めた。
「そう、石窯。パンや発酵生地のピザなんかを焼けるわよ。薪を使うから、燻製香がして美味しいのよね」
ゴパルが垂れ目をキラキラさせた。理解したようだ。
「立ち合います! 安い物で良いので、ビールを冷やしておいてくださいねっ」
サビーナがカルパナと視線を交わして、少しドヤ顔風味でうなずいた。
「じゃ、決まりね。耐熱レンガをたくさん積み上げるから、男手が欲しかったのよ。ちょうど良かったわ」
ん? と、我に返ったような表情になるゴパルである。
(なるほど、そういう事か。ま、いいけど。作業用の丈夫なグローブを持っていくかな)
ついでに、もう一つ思いついたようだ。カルパナとサビーナに提案する。
「では、ポカラ工業大学のスルヤ教授とディーパク助手さんにも、石窯造りの助言をお願いしておきましょうか。私は石窯を作った経験がありませんので、間違えて組み立てる恐れがかなりあります」
カルパナがニッコリと微笑んだ。
「分かりました。レカちゃんを通じて相談してみますね。あ、そうだ。忘れてた」
カルパナが撮影ファイルを確認して、レカに送信した。やはり動画ファイルなので、ファイル容量が大きく、送信完了まで時間がかかるようだ。
その完了までの残り時間を見ながら、ゴパルに聞く。
「ゴパル先生は、お昼の飛行便で首都へ戻るのですよね。今週で、シスワのグアバとスナックパインが収穫終了なのですが……どうしましょうか。お土産で買っていきますか? 私はこれからレカちゃんの所と、シスワへ巡回に向かうので、行けますよ」
ゴパルがちょっと考えて、素直にうなずいた。
「そうですね。上官のクシュ教授や、私の両親のために買った方が良いかな。あ、そういえば、母からトマトを一箱、陸送で頼まれていたっけ。では、お願いします。最近、母が口うるさくなりましてね」




