表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
361/1133

カルパナ種苗店へ

 翌日の早朝、カルパナがバイクで迎えに来てくれたので、その荷台に乗ってパメへ向かうゴパルである。

 道端の住民達も、すっかり二人乗りの風景に慣れてしまったようで、普通にカルパナに合掌して挨拶をしている。カルパナはバイクを運転中なので、左手だけを振っている。

 そのため、彼女の代わりに、ゴパルが合掌して挨拶を返す役割をしていた。ただ、ブレーキや加速時には、荷台の後端を持って、体を支えないといけないが。やはり、カルパナに抱きつくのは、色々とよろしくない。

(どうも、すっかりカルパナさんの使用人みたいな感じになっているなあ。ま、いいけど)


 通学途中の小学生の集団にも出会う。彼らはレイクサイドの私立学校や、公立学校へ向かうので、送迎バスを使わずに徒歩での通学だ。

 その中に、スバシュの娘であるアンジャナが混じっていた。仲良しのディーパとラクチミの二人と一緒だ。

 彼女達は、白と薄い桜色のチェック柄の生地で仕立てた、サルワールカミーズの制服姿だ。肘までのシャツの袖と、ゆったりした裁断のズボンの裾には、蛍光テープが縫いつけてあって、これが朝日を反射してキラキラ輝いている。

 首に吊るされているスマホも液晶画面が反射していた。今日は、先生が授業をサボっていないようである。


 アンジャナがカルパナを見つけて、両手を派手にブンブン振った。

「おはよう~カルパナ様ー! あ、ゴパル先生だあ、臭いぞ逃げろー」

 子猿のように超音波が混じった歓声を上げて、転がるように通学学生の群れの中へ駈け込んでしまった。他の学生は、さすがに逃げてはいないのだが、ゴパルに同情と憐みの視線を投げかけてくる。

 乾いた笑い声を上げるゴパルだ。

「あはは……もう知れ渡ってしまいましたか。確かに、二回目の排水処理場の視察をしなくて正解でしたね。もし、もう一度転んでいたら、社会的に死んでしまう所でした」

 カルパナが放牧水牛を二頭ほどスルリと回避して、肩越しにゴパルに謝った。道端に散乱している水牛糞も、可能な限り回避して、ゴパルに気を配っている。

「すいませんでした、ゴパル先生。もっと私が注意を払っていれば、あんな事にはならなかったのですが……」

 ゴパルも恐縮して、カルパナの後ろで両手を振った。

「いえ、菌やキノコの採集旅行で、田舎道を歩くので、転ぶ事は無いだろうと慢心していました。カルパナさんの責任ではありませんよ。私の注意不足ですし、自己責任です」


 しかし、なおもカルパナが申し訳無さそうな仕草をしているので、話題を変えた。

「そういえばカルパナさん。今回は、サビーナさんがベシャメルソースを教えてくれるという話ですが……これって、イタリア料理のパスタやグラタンでよく使われるソースですよね。ネパール料理でも使えますか?」

 カルパナが気楽な仕草に変わり、穏やかな声で答えた。

「使えますよ。さすがにイタリアでは、パスタにベシャメルソースを使わないようですが。グラタンでよく使います」

 そして、少しの間考えてから、ネパール料理へのアレンジについて語った。

「小麦粉を使っているので、重い口当たりのカレーになりますが、香辛料と油を、ネパール料理で使う種類のものにすれば、大丈夫ですよ。何というか、その、日本風のカレーになりますね」


 ここまで読んだ読者諸賢は、気づいただろう。ネパール料理でのカレーでは、ソースに小麦粉は使われていない。使うとすれば、肉や魚にまぶして油で揚げる際だけである。


 ゴパルがキョトンとした表情と口調になった。

「へえ……日本風ですか。私は日本へはあまり行った事がないので、日本料理については詳しくないのですが……カレーがあるのですね。あ、スーパーで日本製のカレーが売っていました。アレか」

 カルパナが素直にうなずいた。

「私も日本へ行った事はありませんが、レイクサイドやダムサイドには日本料理屋があります。日本人観光客や、仕事の人達でいつも賑わっていますよ。カレーのソースですが、私達や隠者様は、小麦粉をあまり多く食べませんので、代わりに里芋を使います」


 ヒンズー教の祭祀では、西洋太陽暦の一月上旬に、山芋を食べる習慣がある。それに関連して、里芋も日常的によく食べる。

 ただ、普通はオヤツとして、茹でたり焼いたりしたものに、塩唐辛子粉を付けて、そのまま食べる事が多いが。主食として食べる事は、まず無い。惣菜としてもジャガイモほど多用されず、マイナーなオカズである。


 カルパナが使う場合は、里芋を茹でて、とろみを出しているという話だった。

「煮込み過ぎると、里芋が溶けて煮崩れてしまいます。ですので、ちょうど良い具合まで煮てから、里芋を鍋から取り出して、スプーンとかを使って潰します。石臼オークリを使っても良いですね。潰して、ちょうど良いとろみや、粘りが出たら、それを再び鍋やフライパンへ戻します」

 オークリは、すり鉢型の石臼である。石のすりこぎを使う。ネパールでは、洗濯板型の石臼シロウタと共に、家庭の必需品だ。

「冬場では、里芋に代わって山芋を使いますね。こちらも美味しいですよ」


 そんな話をしている間に、カルパナ種苗店に到着した。早速、ビシュヌ番頭が店先へ出てきて、カルパナのオレンジ色をしたバイクを預かる。

「ゴパル先生、ようこそ。サランコットの丘では、大変でしたね。チヤは事務机の上に用意していますので、ご自由に取って飲んでください」

 ゴパルとカルパナがヘルメットを脱いで、顔を見合わせた。動画は削除したのだが、遅かったようだ。

 数名ほどの買い物客も、半数ほどは知っている様子で、カルパナとゴパルに遠慮がちな視線を向けている。


 そこへ、サビーナがスクーターに乗って到着した。スクーターのカゴには、小さなリュックサックが詰め込まれている。ヘルメットを脱いで、カルパナとゴパルに手を振り、リュックサックをカゴから引っこ抜いた。

「ごめんごめん、ちょっと遅れちゃったわね。早速始めましょう。まずはトマトソースからだったわね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ