日の出
ゴパルが反射的に、東の地平線に顔を向けた。かなり雲が出ていて、地平線が覆われ始めているのだが、太陽は昇ってきていない。
「んん?」
首をかしげるゴパルに、レカがニンマリ笑いをしながら告げた。彼女のスマホは、東の空を向いておらず、マチャプチャレ峰を向いている。
「こっち、こっちー」
ゴパルが改めて、正面のマチャプチャレ峰に視線を戻す。と、周囲の観光客が、一斉にざわめき始めた。ゴパルの垂れ目が大きく見開かれて、黒褐色の瞳がキラリと輝いていく。
「あ! こっちか」
今やマチャプチャレ峰は、頂上付近だけが雲から顔を出している状態だった。その鋭利な槍の穂先の先端部分が、赤いオレンジ色に光った。
頂上には雪が数メートルほど、分厚く積もっているようで、その雪が日の出の光を反射しているのだと分かる。ゴパルが、思わず息を飲み込んだ。
「生贄の血を吸ったような色だけど、それが実に神々しいなあ……」
丘の頂上の公園では、観光客が一斉に、マチャプチャレ峰の朝焼けを撮影し始めた。ゴパルもスマホで撮影をする。
しかし、それは数分間も続かなかった。あっという間に、マチャプチャレ峰の山頂が、雲に覆われて見えなくなってしまった。
残念がる観光客が続出する中で、ゴパルも肩をすくめる。
「……ま、最初からは、上手くいかないものですよね。乾期を楽しみにします」
カルパナが穏やかに微笑んだ。
「この場所からは、他に二つ、八千メートル峰が拝めますよ。東にマナスル峰、西にダウラギリ峰ですね。多分、ちゃんと見えるのはマンシール月からかもですが」
マンシール月は、西洋暦の十一月中旬から始まる。祭りが終わって、落ち着いた頃で、観光シーズンの最盛期でもある。
ワイワイと騒いでいる観光客に混じって、ゴパル達も一緒に階段を下り、民宿街へ戻る事にした。
果たして下りると、サビーナが指定した民宿の前に、カチコチに緊張したディワシュとサンディプの二人が、直立不動の姿勢で待っていた。
「お待ちしておりました! カルパナ様っ」
思わず、目頭を押さえるカルパナである。
「そうでした……待たせていましたね。ごめんなさい」




