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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
356/1133

日の出

 ゴパルが反射的に、東の地平線に顔を向けた。かなり雲が出ていて、地平線が覆われ始めているのだが、太陽は昇ってきていない。

「んん?」

 首をかしげるゴパルに、レカがニンマリ笑いをしながら告げた。彼女のスマホは、東の空を向いておらず、マチャプチャレ峰を向いている。

「こっち、こっちー」

 ゴパルが改めて、正面のマチャプチャレ峰に視線を戻す。と、周囲の観光客が、一斉にざわめき始めた。ゴパルの垂れ目が大きく見開かれて、黒褐色の瞳がキラリと輝いていく。

「あ! こっちか」


 今やマチャプチャレ峰は、頂上付近だけが雲から顔を出している状態だった。その鋭利な槍の穂先の先端部分が、赤いオレンジ色に光った。

 頂上には雪が数メートルほど、分厚く積もっているようで、その雪が日の出の光を反射しているのだと分かる。ゴパルが、思わず息を飲み込んだ。

生贄いけにえの血を吸ったような色だけど、それが実に神々しいなあ……」

 丘の頂上の公園では、観光客が一斉に、マチャプチャレ峰の朝焼けを撮影し始めた。ゴパルもスマホで撮影をする。


挿絵(By みてみん)


 しかし、それは数分間も続かなかった。あっという間に、マチャプチャレ峰の山頂が、雲に覆われて見えなくなってしまった。

 残念がる観光客が続出する中で、ゴパルも肩をすくめる。

「……ま、最初からは、上手くいかないものですよね。乾期を楽しみにします」

 カルパナが穏やかに微笑んだ。

「この場所からは、他に二つ、八千メートル峰が拝めますよ。東にマナスル峰、西にダウラギリ峰ですね。多分、ちゃんと見えるのはマンシール月からかもですが」

 マンシール月は、西洋暦の十一月中旬から始まる。祭りが終わって、落ち着いた頃で、観光シーズンの最盛期でもある。


 ワイワイと騒いでいる観光客に混じって、ゴパル達も一緒に階段を下り、民宿街へ戻る事にした。

 果たして下りると、サビーナが指定した民宿の前に、カチコチに緊張したディワシュとサンディプの二人が、直立不動の姿勢で待っていた。

「お待ちしておりました! カルパナ様っ」

 思わず、目頭を押さえるカルパナである。

「そうでした……待たせていましたね。ごめんなさい」

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