ディワシュとサンディプ
ゴパルと一緒についてきていたカルパナとサビーナが、早速、配達カーゴに寄って、野菜の状態を手に取って確認し始めた。
レカは特に何をするでもなく、カルパナとサビーナの間を行ったり来たりしている。
ディワシュとサンディプも、カルパナが来ているのでレカのような動きを始めてしまった。当然、配達どころではなくなる。先日は、カルパナが友達だと言ってから、かなり馴染んだ様子だったのだが。
サビーナが配達カーゴの中から、完熟トマトとズッキーニを取り出して、満足そうな笑みを浮かべた。隣で同じように、野菜を手に取って確認しているカルパナにも聞こえるように感想を述べる。
「ピザ屋向けの出荷品質ってところね。私の店では却下だけど。この辺りの民宿相手だったら、こんなもので十分だと思うわよ」
カルパナは、反対に申し訳無さそうな表情だ。
「完熟一歩手前ですね。悪路輸送なので、どうしても荷痛みが起きます。ロープウェイを使うとコストが高くなりますし……難しいですね。追熟の方法を教えておこうかしら」
追熟というのは、未熟な状態で収穫した野菜や果物を、貯蔵庫で保管して熟させる手法のあれこれだ。野菜や果物ごとに、その手法が異なる。
少しの間、打開策を考えている様子だったが、今は思いつかなかったようである。
それよりも、まだディワシュとサンディプの二人が、壊れた人形のような動きを続けているのに気がついて、慌てて配達カーゴから手を離して数歩引いた。
「す、すいません。お仕事の邪魔になりますね」
まだトマトを手に取って、品質を吟味しているサビーナの手を引っ張って、配達カーゴから引き離す。
それと同時に、ディワシュとサンディプが、変な敬礼をカルパナにした。
「と、ととととんでもありましぇすすすっ。へば、わたくしめはこれにて、もはやこれまで、おさらばっ」
……等と、やはり意味不明な返事をして、配達カーゴを引いて駆け去ってしまった。カーゴの中のトマトやズッキーニ等の野菜が、ゴトゴト跳ねている。すかさず、カルパナが注意した。
「あの! 野菜が傷みますので、輸送には気をつけてくださいねっ」
ディワシュとサンディプが、跳び上がって敬礼した。
「は、はいいいいいい! おおせのままにっへぶしっ」
今度は慎重に、本当に慎重に配達カーゴを引いていく。
サビーナがクスクス笑いながら、カルパナの両肩をポンポン叩いた。
「効果てき面ってやつね。これで、野菜の荷痛みも減るわよ」
そして、配達カーゴを担ごうとし始めたサンディプに告げた。彼の職業病だろうか。
「私達は、ここの民宿の食堂で待っているから、仕事が終わったら来なさい。それと、カーゴは担ぐモノじゃないわよっ」
うわ、おわ、とカーゴを持ち上げたままで、どうしようか困っているサンディプと、カーゴを支えて大慌て中のディワシュだ。
そんな二人を見つめているカルパナが、小さくため息をついた。
「もう、そんなに怖がらなくてもいいのに。この間は、仲良くなったと思ったのだけどなあ……」
サビーナがニヤリと笑って、カルパナの肩をポンと叩いた。
「どうせ、あの二人はカルパナ様と友達になったぞ、とか何とか言いふらしたんでしょ。それで、バッタライ家の関係者に怒られた。そんな所よ、きっと」
頭痛がしたのか、カルパナがこめかみを右手で押さえた。
「多分そうね……もう。お父様とナビンに言っておかないと」
ゴパルが興味深く聞いている。
「大変ですねえ。修正は、早めに行うに限りますよ。ディワシュさん達が配達の仕事を終えたら、君達は友達だと改めて告げた方が良いでしょう。ここは人通りも多いですし、カルパナさんの話は、すぐに周囲に伝わるはずです」
しかし、当のディワシュとサンディプは、まだ忙しそうだ。言いだしたゴパルがカルパナに謝った。
「すいません。まだ配達終了まで、時間がかかりそうですね。チヤ休憩でもしましょうか」
レカが不機嫌そうに頬を膨らませ、東の空を指さした。
「だったら、サランコットの山頂へ行こうー。日の出が見たいぞー」




