ロープウェイ
ロープウェイは始発間もない事もあって、それほど混雑はしていなかった。早速、カルパナが四人分の乗車券を買う。その一枚をゴパルに手渡した。
「すいません、ゴパル先生。車の中で大騒ぎをしてしまいました」
ゴパルが券を受け取って、頬を緩める。
「たまには、ああいう騒ぎを起こすのも良いと思いますよ。研究室の博士課程の三人も、普段はいつも、じゃれ合っていますから」
サビーナが改札機の後ろで仁王立ちして、ゴパルとカルパナを急かした。早くもヨレヨレ状態のレカを引っ張って、改札を通過している。
「早く来なさい。ロープウェイが出発するわよ」
ロープウェイは、ネパールの観光地で見かける程度で、一般的な交通手段では無い。ゴンドラは六人乗りで、ゴパル達四人の他には、二人の欧米人客が乗り込んでいた。
英語のアナウンスが、スピーカーから流れてきた。
「これより発車します。出発、進行ー」
ガタンと音がして、ゴンドラのストッパーが解除された。座席がゴトゴトと揺れる。
すぐにゴンドラが動き、ゆっくりと揺れながらサランコットの急斜面を登り始めた。ちょうど、スキー場のリフトを巨大化したような構造で、ケーブルを丈夫な鉄塔が支えている。
ゴパルは早速、ゴンドラの製造番号や、製造元の情報が記された金属プレートを見上げて眺めている。
「ロープウェイは、ヒンズー寺院で乗っただけですよ。優雅な乗り物ですよね。あ、日本製かコレ」
カルパナも同じ寺院へ行った事があるようだ。すぐに話に乗ってきた。
「ですよね。空に浮かぶというか、そんな気持ちになりますよね。日本の会社が運営していますよ。今はこの一本だけですが、将来は二本ラインにする計画だそうです」
一方のレカとサビーナは、東の空を凝視していた。まだ日の出前なのだが、既に薄い青紫色の空に変わり始めていた。ゴンドラはレイクサイドから実に六百メートル以上も斜面を登るので、風景がどんどん広がっていく。
レイクサイドと、その周辺の住宅街が眼下に広がって見え、フェワ湖も見えてきた。湖対岸にある王妃の森や、チャパコットの山も、はっきりと見えてきた。今や、ゴパルにも馴染みの風景だ。
カルパナも嬉しそうにチャパコットのハウス棟を指さして、ゴパルに説明している。
他の二人の欧米人客もスマホを片手にして、風景の撮影に熱中していた。ただ、まだ夜明け前なので、暗すぎて上手く撮影できていないようだが。
それは、ゴパルやカルパナのスマホでも同じだった。残念がるゴパルである。
「夜景撮影できるような高性能カメラじゃないからなあ……うむむ、やはり真っ暗で何も映っていないか。残念」
カルパナとサビーナのスマホも同様だった。その一方で、レカだけはドヤ顔である。撮影しながらなので、今は流暢に話している。
「わたしのスマホはー大丈夫だからー、撮っておくわねー」
ゴンドラが、斜面を真っ直ぐに登っていくにつれて、気圧差で耳がキーンとし始めた。耳抜きを繰り返すゴンドラの乗客六人だ。
標高が上がるにつれて、眼下に広がるポカラ市街の見事な夜景が広がってきた。やはり区画ごとに計画停電を行っているようで、三分の一くらいの面積が真っ暗だ。
それは、ポカラを取り囲む山々に点在する山村でも同じで、灯りがついている山村と、真っ暗な山村とに分かれていた。
その様子を見ながら、カルパナが申し訳無さそうな表情でゴパルに語った。
「パメとチャパコット、ナウダンダでは、フェワ湖に流れ込む沢や川でマイクロ発電をしています。そのおかげで、停電の影響は少ないですね」
そういえば、クシュ教授がミニ水力発電機の情報を集めていたなあ、と思い起こすゴパルだ。
アンナキャンプでも、近くのマチャキャンプでミニ水力発電を行っていると、現地で聞いた。意外にあちらこちらで、小規模な水力発電が普及しているようだ。余剰電力は、電力公社に売る事もできるらしい。
レカが撮影を続けながら、ゴパルに告げた。今はポカラの夜景を撮影中だ。
「そろそろ頂上駅に到着するわよー」




