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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
肥料も色々あるよね編
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チャパコットのハウス

 そんな事を考えていると、チャパコットのハウス棟の前に到着した。カルパナが作業道をバイクで上り、ハウスの隣にある駐輪場に停める。ヘルメットをハンドルに引っかけて、腰までの髪を左右に振った。

「運転手さん。ここで待っていてくださいね。後で、チヤを持ってこさせます」

 運転手が、ニッカリと笑って手を振った。

「おー。了解した。ここで昼寝でもしてるわい」

 ゴパルが苦笑しながら、助手席から降りて、後部座席から降りたジェシカとタンをハウスへ案内する。

「では、参りましょうか」


 タクシーを道端に残して、カルパナの案内でハウス棟を巡りながら、段々畑の斜面を登っていく。

 ジェシカとタンも、すっかり顔の緊張が解けたようである。まあ、朝から生ゴミ見物をしたのだから、当然の表情であったのだが。

 それぞれのハウス棟では、培養液の希釈液が噴霧され、ほのかに糖蜜の香りがする。花卉かきの栽培棟では、朝の出荷が終わり、休憩時間に入っていた。培養液の噴霧は、既に機械化されて自動噴霧に組み込まれているようだ。

 この時期はプルメリアとベゴニアの花が最盛期を迎えていた。プルメリアは芳香がある花で、白や黄色、桃色や赤色と色の種類も多様である。ベゴニアも赤やピンク、白にオレンジ色と人気がある花だ。

 いずれも鉢植えなので、赤い素焼きの植木鉢がズラリと栽培棚に並んでいる。

 カルパナがジェシカとタンに、培養液の散布をしている所だと説明して、ゴパルに振り向いた。

「光合成細菌も一緒に散布していますよ。効果は今の所、ハウス内部の沈んだ空気が、綺麗になったような印象ですね。肥料効果や農薬効果は見られません」


 ゴパルもカルパナに指摘されて、今、初めて空気の変化を感じ取った。確かに、湿ったカビとキノコと腐葉土の、重く感じるような臭いはかなり軽減されていた。ただ、この臭いの変化を測定して数値化するのは、手持ちの機材では無理だろう。

「なるほど。そう言われてみると、確かに。でも、少し糖蜜臭いのは、要改善かな。光合成細菌も、この希釈倍率でしたら臭いが気になりませんね」


 続いて、花木かぼくの栽培ハウス棟を巡っていく。この時期は、ゴールデンシャワーと呼ばれるツル植物が花盛りだった。手の平サイズの鮮やかな黄色をした房状の花が、網棚から垂れ下がって咲いている。この木は盆栽化していないので、ハウスの一角を占領して圧巻の風景だ。

 その花を一つ持ったカルパナが、ジェシカとタンに説明した。

「見ての通り、かなり大きい棚が必要になります。広い庭がある家は少ないので、このままではあまり売れません。ですので、花だけを摘んで売っていますよ」


 同じように花だけを摘んで売っているのは、この時期では同じツル植物のコダチヤハズカズラの青紫色の花や、藍白色のベンガルヤハズカズラ、それにランタナの赤紫の花がある。

 他には深紅の花を咲かせるテイキンザクラや、赤い花のカンナ、中央部だけ赤い白い花のソケイノウゼンも、花だけを摘んで出荷しているという事だった。

 盆栽では、芳香を放つ白や紫色の花を咲かせるニオイバンマツリが、そろそろシーズン終盤という話だった。

 反対に、ピンク色の花を咲かせるトックリキワタが、開花シーズンに入ったらしい。他には、オレンジ色の花を咲かせるホウオウボクも、人気があるという話だった。


 人気という点では、やはりランが一番のようだ。今の時期は、薄いピンク色の花を咲かせる、草丈三十センチほどのエリデスや、同じく草丈三十センチ以下で薄青色の花のリンコスティリスが旬だという話だった。

 カルパナが国産ランのフォーモサムの株に手を伸ばす。既に花の季節は終わっていて、咲いた後に残った萎れゴミを取り除いた。

「この時期は、ランの端境期はざかいきなので、出荷できる品種は、この二種類だけですね。西洋の暦の年末にならないと、花の種類は増えません」

 熱心にランを観察して、スマホで撮影を続けているジェシカとタンを見守った後で、カルパナがゴパルに視線を向けた。二重まぶたの目の黒褐色の瞳が、少し輝いている。

「ゴパル先生。ランへの培養液散布ですが、これは効果が出ていますよ。白い根の勢いが良くなってきています」

 確かに、国産ランを見てみると、新しく伸びて来た白い根が多い。栽培種の二種類のランも、同じように白い根が多数伸びていた。ゴパルもスマホで写真を撮って、視線を熱心にランへ向けた。

「さすがランですね。微生物を使うのが上手だなあ」


 そういえばとゴパルが、話のネタを一つ語った。野生のランには、観賞には向かない品種も多い。悪臭を放つランもある。

 野生キノコから栄養を奪って育つ、野生ランもあると話す。このランはキノコを操って生長しているという事だった。

 カルパナが軽く肩をすくめて微笑んだ。

「植物の世界は、凄いですね。ちょうど、スバシュさんが、上のキノコ栽培の簡易ハウスに到着したと、連絡が入りました。私達も向かいましょう」

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