パメの家
カルパナがスマホで電話を家にかけた。話は既に通っていたようで、すぐに電話を終えて、ゴパルに微笑む。
「弟が準備を終えたそうです。では、パメの家へ向かいましょうか」
しかし、ジェシカとタンは、今回は最初から作業に参加せず、種苗店に残って、切り花や植木を見物する事にしたようだ。生ゴミとハエのショックが、思った以上に大きかったようである。今は店頭で、ビシュヌ番頭から花の栽培方法について、色々と聞いている。
そのため、パメの家に向かったのは、カルパナとゴパルだけであった。近いので、数分も歩くと家に到着する。
カルパナの弟のナビンが、家の前庭で出迎えてくれた。にこやかな笑顔だ。
「ようこそ、ゴパル先生。生ゴミの準備は整っていますよ。早速始めましょう」
前庭の隅にある小屋に案内されると、そこには先のレストランでの時のような準備がなされていた。ゴパルがシャツを腕まくりする。今回も丈夫な手袋をつけた。
「さすが手際が良いですね。では、始めましょうか」
二百リットル容量の強化プラスチック製タンクを二重底にする。次に、底に排水穴を設けて、簡易な排水コックを取り付けた。この中に、米ぬか嫌気ボカシをまぶした生ゴミを詰めていく。この生ゴミにも、魚の頭や、鶏のガラ等が含まれているので、ミキサーで粉砕している。
レストランの時と異なり、生ゴミの量自体も、それほど多くなかった。タンクの十分の一程度の量に留まっている。
詰め込み作業が終わって、一番上に米ぬか嫌気ボカシを薄く散布し、内フタを被せて、水が入った袋を乗せた。
ゴパルが、米ぬか嫌気ボカシの量と、生ゴミの量とを比較する。
「この作業でしたら、生ゴミ二百リットルに対して、米ぬか嫌気ボカシは二十キロで足りそうですね。十日間で満杯になる計算です」
パメの家では、弟の嫁と使用人も見物していて、カルパナと顔を見交わして納得した。弟のナビンが、ゴパルに感想を述べる。ちょっと困ったような表情だ。
「アチャールを漬けるような感じですね。食べ残しは不浄なので、直接触れる事はできませんが……手袋をするなりして工夫してみますよ。できれば、機械化して全自動処理になると良いですね」
ゴパルも、素直に同意した。
「そうですね。家庭ごと、レストランごとに人手が必要なこの方法は、最終的には行き詰りますよね。機械化がどこまでできるか、色々と検討してみます」
その生ゴミボカシ仕込みが終わった後で、小屋の中でチヤ休憩を挟む。とりあえず、皆で手洗いをしてから、チヤが湯気を立てているガラスカップを持った。
生ゴミが新鮮で、米ぬか嫌気ボカシをまぶしているので、生ゴミ特有の悪臭はしていない。そのおかげか、ハエもそれほど飛び回っていなかった。
ナビンが、その事に気がついて少し感心している。
「ハエが少ないだけでも、充分に効果が出ていますよ。ええと……タンクが一杯になったら、排液を抜き取りながら、四週間ほど熟成させるのでしたよね。三十日間と考えて、タンクは三個あれば足りますか」
ゴパルがチヤをすすりながら、うなずいた。
「そうなりますね。熟成期間は亜熱帯ですので、三週間もあれば十分だと思いますが、念のために、もう一週間だけ延長しておきましょう」
ナビンが了解するのを確認してから、もう一口チヤをすするゴパル。タンクをポンと叩いた。
「タンクには生ゴミがギッシリ詰まっていますから、手押しフォークリフト等を用意した方が、良いでしょう。移動作業が楽になります」
ナビンが、使用人と視線を交わしてから、ゴパルに顔を向けた。
「分かりました。手押しフォークリフトは、既に持っていますので、それを使いますよ。ですが、作業は少々煩雑ですね。ちょっと試行錯誤してみます」
そして、次にナビンがチヤをすすりながら、カルパナに聞いた。
「……で、姉さん。この後は、チャパコットですか?」
カルパナもチヤをすすりながら、にこやかに微笑んだ。
「うん。ジェシカとタンさんも一緒だよ。道がまだ泥で滑りやすいから、念のためにシャツとズボンを用意してくれるかな?」
どうも、カルパナは、弟に対しては口調が砕けるようである。ナビンが肩を軽くすくめた。
「了解、姉さん。あんまり、海外からの客に無茶を強要しないようにね」
頬を軽く膨らませているカルパナを放置して、ナビンがゴパルにお願いした。
「姉のわがままに、お付き合いしてくださり、ありがとうございます。姉が無茶をしそうになったら、遠慮なく指摘してくださいね」
チヤ休憩を終えて、いったん種苗店へ戻るゴパルとカルパナであった。そこで、まだビシュヌ番頭と話し込んでいるジェシカとタンに合流する。
カルパナが二人に謝った。
「すいません、お待たせしました。ビシュヌ番頭さん、ごくろうさまでした。チャパコットへ向かいましょう」




