米ぬか嫌気ボカシあれこれ
ゴパルが菌の活性ネタのついでに、補足説明を続けた。
「この仕込み方を続けていれば、毎回、同じ出来になるはずです。ですが、他の場所では条件も異なってきますので、出来も変わってきます。参考までに、言っておきますね」
まず、出来を大きく左右するのは水分量である。
水分量が少ないと、埃っぽいカビ臭を強く感じるようになる。空気に触れる部分も増えるので、発熱して失敗しやすい。
若干少なめであれば、パンの生地のような発酵臭がする。この場合は乳酸菌よりも酵母菌が優先している状況だ。あまり酸っぱくないので、雑菌が繁殖して、米ぬか嫌気ボカシが腐敗しやすい。
なので、発酵が済んだら、早めに使い切るのが良いだろう。色合いは白い菌糸が多く発生しているので、全体に白っぽい。
水分量が多めになると、今度はアルコール発酵が始まりやすくなる。これも酵母菌や、クモノスカビによる働きのせいだ。ただ、この場合は乳酸発酵も十分進む場合が多いので、腐敗しにくいのだが……アルコール発酵が進むと、ヒンズー教徒としては使いにくい。
さらに水分量が高めになって、泥団子のような状態になると、嫌気性菌が優先してくる。接着剤のような刺激臭が生じ始め、米ぬかの色合いも黒っぽく変色してくる。腐敗しやすくもなり、ヘドロ臭や糞便臭が生じると使用できなくなる。
水分量以外の注意点は、腐敗菌や有害なカビの有無だ。乾いている状態では、発熱してカビが発生しやすい。白や薄い黄色のカビは特に有害ではないが、濃い黄色になると、カビ汚染されていると判断した方が良いだろう。有毒の胞子を放出するカビも多いので、臭いをかいで判断するのは避けた方が良い。
緑色や赤色、茶色、青色、黒色といった色のカビは、一律で有害と認識した方が確実だ。抗生物質等を産生するカビもあるのだが、検査機材を持たない素人には、有害か有益かの判断は難しい。
カビの他には、キノコも生えやすくなる。キノコ臭がしてきたら、早めに使い切った方が良いだろう。キノコが生えてしまった物は、堆肥の材料に使うか、作物の邪魔にならない場所に撒いて、土と混ぜて捨てる。
水分量が増えてくると発熱もするが、アンモニアガスを発生させる菌が繁殖して、米ぬか嫌気ボカシを腐敗させてしまう危険性が増してくる。他にも悪臭を発生させる菌が繁殖しやすくなるので、使用せずに処分する。
密閉状態が不完全な場合では、ダニやハエ等の不快なムシが侵入して、米ぬかを餌にして爆発的に増殖する。見た目がホラー映画のクライマックス場面のようになるので、そうなる前に、早めに処分する。
そのクライマックス場面は、カルパナやジェシカとタンも馴染みのようだ。顔を見交わして苦笑している。家畜の糞を使った厩肥や、尿等を使った液肥を作る際には、そのようなホラー映画の場面が日常的に観賞できるのだろう。
ゴパルが、二百リットル容量の強化プラスチック製タンクの外面を確認する。床に近い外壁に傷ができている。それを指さした。
「ネズミがかじった傷です。強化プラスチック製なので問題無いですね。ですが、長持ちさせるために、何かを巻いて補強しておいてください」
カルパナがスマホで傷を撮影して、ゴパルにうなずいた。
「そうですね、分かりました」
ゴパルが米ぬか嫌気ボカシの表面を、再びポンポン叩いた。
「では、次に生ゴミボカシを作ってみましょうか。ここはレストランとは違うので、生ゴミの種類も違うはずです」
再びジェシカとタンが眉をひそめる横で、カルパナが穏やかな笑みを浮かべて返事をした。
「はい。パメの家で出る食べ残しと、調理ゴミですね。肉や魚を使っていますが、油は少なめです。揚げ物はしません」
ヒンズー教徒の清浄カースト階級では、菜食主義者が多いのだが、バッタライ家では肉もしっかり食べるようだ。菜食主義者と言っても、欧米のヴィーガン等とは異なり、乳製品や卵も食べる。
ゴパルが思わず、カルパナから視線を外した。彼の場合は、酒を飲むので、こういった清浄な空気を感じると弱い。
「で、では、パメのカルパナさんの家に、向かいましょうか」




