ジェシカとタン
そんなやり取りを見ていたゴパルが、軽く頭をかいた。
(うーん……どうも、この二人は、私が苦手とする人の部類かな。無茶な研究事業を立案する、無責任な人達と雰囲気が似ている。これは、カルパナさんに助け舟を出した方が良さそうだ)
「カルパナさん。もう夕方なので、今日の予定を早く片付けてしまいましょう。培養液と米ぬか嫌気ボカシの最終確認でしたね。使用できる状態であれば、早速、生ゴミボカシを仕込みたいのですが。どうでしょうか」
ジェシカとタンが、ゴパルをジト目で見つめた。代わりにカルパナがほっとした表情になる。
「そ、そうでしたね。食べ残しと調理クズとを使うのですよね。パメの家と、ここのレストランで実験してみようと思います。生ゴミの種類が、この二か所では違いますし。ゴパル先生、どのような物が適しているのか、教えてください」
ゴパルが微笑んでうなずいた。
「了解しました」
いつの間にか、ラ・メール・サビーナの給仕長が、ロビーに姿を現していた。
白い長袖シャツの上に、黒い上品なベストを着ていて、その胸元には名札とソムリエの証がキラリと光っている。黒いネクタイをきちんと締めていて、黒いトピも似合っている。
黒いズボンには、キッチリとした折り目が付いていて、黒い革靴までスッキリとした印象を見る人に与えている。
つまりは、チヤを飲んでいる男女四人の身なりが、よりだらしなく見えてしまうような服装である。
そんなキッチリした服装の給仕長が、合掌して丁寧に挨拶をした。細い一重まぶたの目が、柔和な光を帯びている。
「では、ご案内いたしましょう。どうぞ、こちらへ」
ゴパルが申しわけなさそうに、手を上げた。
「すいません、まだチェックインを済ませていません。もう少しだけ、待ってもらえますか? ギリラズ給仕長さん」
給仕長がキョトンとした表情になった。まさか、まだチェックインをしていなかったとは、予想していなかったのだろう。それでも、柔和な笑みを浮かべたままで、ゴパルをホテルの宿泊受付カウンターへ案内してくれた。
ゴパルが謝る。
「すいません、ギリラズ給仕長さん。こんな管轄外の仕事までさせてしまいまして」
給仕長が、ホテルの受付カウンターに立つ窓口スタッフと、顔を見交わして微笑んだ。
「いいえ。小さなホテルですからね。レストランのスタッフとも密接に連携を取っています。私も時々、受付で宿泊の会計処理を行いますよ」
ゴパルがチェックインを済ませて、鍵を受け取った。いつもの男スタッフにキャリーバッグを持たせて、階段を上っていく。その途中でカルパナに声をかけた。
「少し待っていてください。部屋に荷物を置いてきますね」




