唐辛子スプレー
弟のナビンが、痛い物でも見たような表情になって、ジト目になった。その横で、ゴパルがさらに首をかしげる。
「唐辛子……ですか。催涙ガスでしたら、ドラマ等で見た事がありますが。まさか、催涙ガスの化学物質に隠者様が難色を示した、とかですか?」
カルパナが穏やかに微笑んだ。
「さすがですね、ゴパル先生。自然素材にこだわっています。威力は、かなりのものだそうですよ。まだ人に使った事はありませんが」
カルパナによると、この唐辛子は東インド原産の品種で、アクバレよりも遥かに辛いらしい。そのため、野生インド象の撃退兵器として開発され、これはその技術の民間転用という事だった。
(えええ……象退治の唐辛子を、人に使って大丈夫なのか?)
ゴパルが大いに危惧するのをよそに、カルパナがニコニコしている。
「鎌と違って、軽いのが良いですね。スプレーの射程も二メートル弱あります。風向きに気をつければ、かなり便利だと思いますよ」
そう言って、カルパナがスプレーをゴパルに手渡した。大いに怪訝な表情を浮かべているナビンに配慮しつつ、ゴパルが慎重に受け取る。
「あ、確かに軽いですね。ラベルに何か書かれてある、何だろう」
成分表示か取り扱い注意事項かな、と思い、ゴパルがスプレーを顔に近づけた。屋上が暗いので、普段よりも近く顔を近づけ……。
ぷしゅ。
ゴパルの意識が飛んだ。




