一件落着
協会長が上半身裸のゴパルを愉快そうに眺めて、毛布を一枚差し出した。
「とりあえず、お部屋へ戻ってシャワーでも浴びてはどうでしょうか。替えのシャツと下着は、私のホテルが用意いたしますよ」
続いて、カルパナにも毛布を差し出す。
「カルパナさんにも、一部屋提供します。そこで汗を流してください。替えの女性用のシャツも、至急、服屋から取り寄せます」
顔を見交わして、互いの姿を改めて確認するゴパルとカルパナである。
確かに、森の中を駆け回ったので、全身に泥や、汚れが付いている。足元はサンダルごと泥まみれだ。素直に、協会長の申し出に感謝する二人であった。
「そ、そうですね。いったん、自室へ戻って、身だしなみを整えた方が良いかな」
「ラビン協会長さん、ありがとうございます」
そして、スバシュとビシュヌ番頭に、パメの家から下着を持って来るように頼んだ。次に、駆けつけてくれた十名の作業員達にも礼を述べる。
「ありがとうございました。足の骨折で済んで良かったです。種苗店でチヤでも飲んでください」
ビシュヌ番頭が、スバシュと作業員を引き連れ、バイクとタクシーを使って、パメへ戻っていく。それを見送ったカルパナが、困った様子で口元を少し緩めた。
「また、男勝りとか、オテンバとか言われてしまいますね、あはは……」
ゴパルも両目を軽く閉じて、コメントに困っている様子であった。協会長は冷静だ。いつもの事なのだろう。
協会長に案内されて、水門の上を歩いて渡り、ルネサンスホテルへ向かう。ゴパルが頭をかいて、何か気の利いたコメントを思いつこうと考えている。
しかしその前に、髪の中に吸血ヒルが紛れ込んでいるのを指先で察知して、それどころでは無くなってしまった。急いで頭をゴシゴシこすって、吸血ヒルを振り落とす。
道路に丸々と太った吸血ヒルが二匹、ポトリと落ちた。すぐにサンダルで踏み潰す。頭からダラリと血が垂れて来て、がっくりと肩を落とすゴパルだ。
「やれやれ……すいません、ラビン協会長さん。消毒液と絆創膏を用意してもらえますか?」
協会長が気楽な口調で応じた。
「そうですね。カルパナさんの分も用意いたしましょう」
カルパナも、髪の中に両手を突っ込んで探っていたが、やはり吸血ヒルが居たようである。彼女もがっくりと肩を落として、寂しく笑った。
「あはは……私もですね。うなじに一匹食いついていました。今取ると、シャツが血で汚れてしまうなあ……シャワーを浴びる時まで、このまま吸わせておこうかしら」




