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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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バクタプール大学

 このバクタプール大学は、国立の総合大学だ。外装は古都の景観に合わせて、赤レンガと赤瓦の三階建て。しかし、内装は現代的な諸設備を稼働させており、研究が盛んである。実際に、インドや欧米の大学や研究機関との合同研究事業が、多くの教室で行われている。

 惜しむらくは、研究に用いる設備が若干古いものばかりという点だろうか。それと、技師を中心にして、人材不足もかなり深刻なようである。


 その状況は、大学内にある農学部棟の微生物学の研究室でも同じであった。

 引き戸のドアには『微生物学』という表札が設けられている。廊下には、学生や助手、それに博士課程の者たちが、ひっきりなしに行き来している。業者の営業も何名か混じっているようだ。

 ……のだが、表札の下に掲げられている『実験中につき立ち入り禁止』という札のせいで、誰も微生物学の研究室に入室できていない。

 ほとんどの者は、これを見て肩を落とし、その下の書類入れの箱に、用件を書いた紙を突っ込んでいく。さらに、スマホを取り出して、苦情を送信していく者も多い。とりわけ、面会の約束を取りつけてきた業者の営業に至っては、憤怒の表情である。

 まあ、彼らの気持ちも理解できよう。研究室があるのは、農学部の最上階である三階の角部屋なので、ここで追い返されるのは、なかなかにつらいのだ。エスカレーターは無く、エレベーターも使い過ぎでケーブルが摩耗して故障している状況では、なおさらだ。

 皆、顔をしかめてドアを数回ほどバンバン叩いて、何か喚いてから去って行く、その光景が繰り返されていた。


 さて、その一見さんお断りの微生物学研究室の中では、いくつもの大きな機械が、モーター音を鳴らして稼働していた。

 最新式の機器ではないのだが、それでも業務用の冷蔵庫や冷凍庫に恒温庫、無菌の環境で作業を行うクリーンベンチ、殺菌用の大きな圧力鍋であるオートクレーブ、培地の材料を収めた棚、そして何かの菌を培養している揺れる棚、等が所狭しと置かれている。

 ガスバーナーも使うようで、ガスボンベとコンロも領土を主張している。さらに水場もあり、蛇口の上には蒸留水の製造機がデンと置かれている。さらに上に設置された、一抱えもある水タンクには、生成した蒸留水を溜めこんでいる。

 各種の薬品を収めた棚や、滴定等を行う作業台もあり、確かに、部外者が入るには少々危険な雰囲気である。電子機器の配線も適当に束ねられて、ガムテープで床や壁に貼りつけられていた。天井には、安物のハンガーが垂れ下がっていて、それに配線を架けて通している。


 そんな大型機器と爆発物と危険物がひしめいている研究室であるが、唯一、居間と呼べる一角がある。

 実際は、泊まり込みで実験をする際に使う仮眠場所になっているのだが、見た目は『来客にも対応できるよ』アピールになっている、はずだ。

 ソファーが穴だらけ、焦げ跡だらけで、中のスポンジがはみ出ている点は、見なかった事にすれば良いだろう。イスも背もたれが破損しているが、これも浅く座れば問題ない、はずだ。

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