トマトソースのピザと
間もなくして、トマトソースのピザと紅茶セットが、食堂スタッフによって運ばれて来た。
ピザは生地が薄いもので、赤いソースの上にサラミやチーズが乗ったものだった。紅茶の方は、二人用の白い陶器製のティーポットに入っている。カップも陶器製で、どちらも安価なインド製だった。
食堂スタッフが、手慣れた様子でティーポットからカップに紅茶を注いでくれる。紅茶は既にミルクティーになっているものだった。ティーバッグは、取り出されてある。
カップとティーポットから立ち昇る湯気と共に、紅茶の香りを吸い込んだゴパルが、意外そうな表情になっていく。
「思っていたよりも、香り高い紅茶なんですね」
協会長が、ミルクティーを口に含みながら静かにうなずいた。
「そう言ってくださると、嬉しいですね。雨期ですので、風味は、これでも弱まっていますけれどね」
ゴパルが改めて周囲の客を見渡した。そう言えば、ピザなのにコーヒーでは無く、紅茶を頼んでいる客の数が多い。
確か、イタリアやフランスでは、紅茶よりもコーヒー、それも蒸気で抽出するエスプレッソが主流だったっけ、と思う。エスプレッソは、普通のコーヒーよりも苦味と風味が強い。
「……と、言う事は」
ゴパルが、小さな一人前のピザを手で取った。あらかじめ切り分けられていて、焼きたてで熱い。
持ち直して、改めてピザの表面を見つめると、トマトソースの中に数多くの野菜が、細かいサイの目に切られている。定番の玉ネギの他には、コーンやウリ、ナス、パプリカ等が確認できた。それらが控えめな量のチーズと混ざっている。
そのまま口に運ぶ。
「……なるほど。バターの香りが強めなんですね。チーズも控えめな臭いだ。これなら、紅茶でも合います」
もぐもぐ食べながら、少しの間考える。
(普通は、ピザって、オリーブ油の香りが強いはずなんだけれど、気にならない程度に抑えているみたいだ。紅茶とコーヒーの両方を売りたい、という事なのかも知れないな)
結論として……
「でもまあ、コーヒーでも十分いけそうな味かな」
そんなゴパルの評価を聞いて、協会長が、少し肩をすくめて微笑んだ。
「仰る通りです。素材の質がバラバラですよね。今のところは、チーズの力で何とかまとまっている、という所です。紅茶の香りで一緒に食べるか、コーヒーの勢いで一緒に洗い流すか、という」
ゴパルもミルクティーの香りで、ピザを食べている。確かに、協会長の指摘の通りかな、と感じた。
「特に、その……野菜の香りが弱いような気がします。雨期ですから、仕方が無いのでしょうね」
基本的に、野菜の風味は、肉の脂やチーズが多くなると、相対的に弱く感じるものだ。それにしても、弱いかなと思いながら、もう一枚食べるゴパルである。
協会長も、もう一枚を口に運びながら同意した。
「このピザ屋でも、野菜とチーズをポカラ盆地内から仕入れる努力をしています。地産地消を進めているのですが、正直なところ、壁に当たっています」
本題に入ってきたようだな、と感じるゴパルであった。最後の一切れを食べながら、ティーポットのミルクティーをカップに注ぐ。ちょうど、ポット内に残っていた分量を、全て注ぎきった模様だ。
「首都でも、地産地消が盛んですが、同じような問題が起きていますよ」




