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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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イスラム教徒達

 白い帽子と白い上下の服のイスラム教徒達が、十数名ほど店内に入って来た。そのまま、イスラム教徒向けのビュッフェに向かって行き、料理を物色し始める。

 その姿を眺めながら、協会長がチヤをすすった。

「礼拝がちょうど終わったのでしょうね。料理人も、そろそろ厨房へ戻ってくると思いますよ」

 ネパールでは、イスラム教徒の人口は少ない。昔は下位のカーストとして扱われていた上に、国がヒンズー教への改宗を促していた。そのせいもあり、今でも少数派に留まっている。

 談笑しているイスラム教徒を、ゴパルも眺めながら、同じようにチヤをすすった。

(そう言えば、昔の不可触民カーストを中心にして、ヒンズー教徒からイスラム教徒への改宗も増えているとか、何とか聞いた事があるなあ)


 不可触民カーストとは、今でいうと、職業カーストだ。ヒンズー教徒内と、ネワール族内でのカーストの二種類に分かれる。裁縫業、清掃業、精肉業、陶芸業、鍛冶業、吟遊業、皮革加工業、漁師等が相当する。ちなみに、西欧人やイスラム教徒もこれに含まれていた。恐らくは牛肉を食べるためだろう。

 彼らの中で特に不浄として分類された者からは、上位カーストの人々は、水を受け取れない規則だった。それ故に、上位カーストは清浄カーストとも呼ばれている。バフン、チェトリと、ネワール族の上位階級が相当する。インドでは、ブラーマンとクシャトリア階級だ。

 ネパールでは、王政時代に法制化までされていたのだが、ポカラでは、首都ほど厳密では無かった。そのために、水を受け取る事も可能だったが。

 一方で、ヒンズー教の祭祀を行えるのはバフン階級のみで、チェトリ階級は、それに従う事しかできないというローカル規則になっていた。今では、その決まりも無効になっている。

 それでも、何となく差別的な雰囲気は、今でも残っているものだ。そのために、ヒンズー教徒から、イスラム教へ改宗する者が出ているのだろう。


 白い帽子を被った食堂スタッフが、席についたイスラム教徒達から注文を受け付け始めた。このスタッフもイスラム教徒だ。協会長がチヤを、もう一口だけすすった。

「ポカラ市内で有名なヒンズー教寺院は、ビンダバシニですが、東にあるバドラカーリー寺院も有名ですよ。そのバドラカーリー寺院から東側の区画には、イスラム教徒が多く住んでいます。ここ、レイクサイドまでは、歩くと一時間半ほどかかって、結構距離がありますが、こうして食べに来てくれるのは嬉しいですね」

 もちろん、市内バスがあるので、歩いて行き来している訳ではない。

 ゴパルがチヤをテーブルの上に置いて、協会長に視線を戻した。

「ポカラの住民全てに、食堂を利用してもらおうという戦略ですね。なるほど」


 協会長が、少しだけ肩をすくめて微笑んだ。

「地元食材の確保が、思い通りに進んでいませんけれどね。コスト削減と安定供給面で、今でも不安がありますよ」

 ゴパルが店内を見回して、少し首をかしげた。ビュッフェは盛況で、料理の供給も滞りなく進んでいるように見えるのだが。客の表情を見ても、特に不満は感じられない。それどころか、取り皿に溢れそうな程に山積みに盛った客ばかりだ。昼食をとる時間に差し掛かっているせいか、店内も次第に混み合ってきた。

「そういう風には、見受けられませんが……?」

 ゴパルの疑問に、小さく微笑む協会長であった。空になったコップを、テーブルの中央に移動させた。

「そう見えれば成功ですね。先程も少し触れましたが、ここの食材は、野菜を中心にポカラの外から調達しています。次はピザでも食べに行きませんか? 雨が降っていますが、近くの店ですから」

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