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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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湖畔

 雨なのでタクシーで行く事も考えたゴパルだったが、せっかくなので歩いて向かう事にした。ホテルが用意した雨傘を差しながら、協会長と一緒に、湖畔沿いの道を歩いていく。

 昼前なのだが、雨雲が分厚いせいか薄暗い。道端の食堂や土産物屋、それに旅行代理店は営業中で、道を歩いているのはインド人観光客ばかりだ。中国人もあちらこちらで見かける。

 協会長の案内によると、ルネサンスホテルが建っている辺りは、ダムサイドと呼ばれる地区になる。湖の名前はフェワ湖といい、その湖水の一部を使って、ミニ水力発電を行っているという説明だった。

 ダムサイドの西岸は、王妃の森と呼ばれる保護地域となっていて、立ち入り禁止だ。その森の北側には、仏塔が建っている山がある。


「仏塔周辺には車で行けます。晴れると、パラグライダーが多数飛んでいるのが見られますよ」

 協会長が、王妃の森の北側に伸びている、山の尾根筋を指さした。

 ゴパルは、空を飛ぶ趣味は無いので、普通に聞き流している。それよりも、先程のレストランで少し気になった事があったので、その点を聞いてみた。

「すいません、ラビン協会長さん。先程のレストランですが、もしかして会員制ですか?」

 協会長が、にっこりと微笑んだ。

「お気づきになりましたか。その通り、会員制です。扱う食材や、飲料の原価が、非常に高いものばかりになるのです。そういう場合ですと、客が料理を予約した上で、突然、予約の取り消しをしてきますと、多大な被害を被ります。何よりも、料理人の士気が下がってしまいますね」

 ゴパルも素直に同意した。

「そうでしょうね。ほぼ全ての食材と酒は、海外からの直輸入なのでしょう?」

 協会長が、軽く肩をすくめた。

「鳩は地元産ですが、他の食材では、まだまだ海外からの輸入品が多いですね。客が来なかったという事で、輸入食材を欧米へ返品する訳にもいきませんし。ですので、会員制にして、支払いが確実な客を囲っているのですよ」


 これは、いわゆる日本の、一見さんお断りの料亭の考え方に近いといえる。

 協会長の話によると、会員制のレストランでは、いくら飲み食いしても、料金は月末の一括払いだそうだ。掛け払いとも呼び、翌月末への支払い繰り延べも可能らしい。客に、お金の心配をしてもらわずに、食事を楽しんでもらうためのシステムである。

 その料金には、送迎のタクシー代金も含まれると、説明してくれた。

「会員客が連れて来た、友人や取引先、接待客の送迎代も負担しますよ。食事後には、利用してくれた事を感謝する手紙や粗品を送ります。加えて、イベント案内や、希少食材の入荷の速報を流したりもします」

 感心しているゴパルに、協会長が口元を少しだけ緩めて笑った。

「今は、私のルネサンスホテルの、レストラン一軒だけのサービスですけれどね。将来は、こういった会員制レストランを増やして、ポカラだけでなく、近隣地域でも展開したいと考えています」


 しばらく歩くと、湖畔沿いに伸びる繁華街に入った。レイクサイド地区だ。ダムサイド地区と異なり、飲食店や土産物屋、衣料店も増えてきた。人通りも多くなり、活気がある。民家も多いようで、地元の人達の姿も多く見受けられた。 

 黒い水牛や、白や褐色の雌牛、それに山羊の放牧数も増えている。バイクや自転車の行き来が増え、インドのナンバープレートを表示した車も多く走っている。

「インドから避暑で、やって来ているのですよ。UP州やビハール州のナンバーが多いですね。クラクションを鳴らすのを、必要最低限にしようという規則ができたので、以前と比較しても、かなり静かになりました」

 インドでもネパールでも、以前は、隙あらばクラクションを鳴らしていた。しかし、騒音公害だと騒がれるようになって、今ではこうして制限されている。


 樹高十数メートルにも達する、大きな菩提樹が所々で生えていて、樹の根元に石作りの神様が祀られている。チョータラと呼ばれているもので、一見すると道祖神や地蔵尊にも見え、赤色の色粉で石が染まっていた。幹も赤や白に塗られていて、樹の周囲はちょっとした石垣で囲われている。道は、その石垣の周りを沿うように伸びていた。

 首都の郊外の集落でも、よく見られる石垣なので、ほのぼのとした気持ちで歩いていると、協会長が一軒の食堂を指さした。

「あれが二十四時間営業の食堂ですよ、ゴパル先生」

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