ワインの相性
そこへ、サビーナが厨房から顔を出した。コックコート姿のままで、さらに少し汚れている。
「テンプラニーリョ品種の赤ワインも、良い物は良いのよ。この子鳩料理でも、そのワインを飲む事を前提に料理すれば、評価も変わってくるわ」
これは、ソースや、子鳩の下処理、それに付け合わせの内臓料理等を工夫するという事だろう。実際、今回の子鳩のソースでは、あっさり風味の鶏ガラのダシを使っている。
サビーナが、ニッコリとアバヤ医師に微笑んだ。
「イノシシのラグーみたいな料理だったら、獣臭を帯びたモレ・サン・ドニだって、力負けする事があるわよ。今回の子鳩だって、本当に古典的な、超絶重いソースを使っていれば、どうだったか分からないし」
さすがに、ソースの話までに及ぶと、アバヤ医師も黙ってしまった。彼は料理人では無いので、言い負けるのは仕方がない。
勝ったと確信したのか、サビーナが満面の笑みを浮かべて、ゴパルに視線を向けた。
「ゴパル君。テンプラニーリョ種はね、シラー種ほどじゃないけれど、スパイス系の香りがあるのよ。これを活かすように料理を考えれば、それで良い話なのよ。安心しなさい」
そして、改めてゴパルの顔を、まじまじと眺めた。少し嬉しそうな表情をしている。
「ふむふむ。ゴパル君の味覚、結構良いわね。あんなにチヤばかり飲んでいるのに、偉い偉い」
ゴパルがナイフとフォークを、いったんテーブルに置いて、サビーナに挨拶をした。その後で、少し不安そうな表情になる。
「チヤばかり飲んでいると、体に悪いですか?」
サビーナが、かなりのドヤ顔になって、ゴパルに告げた。
「ミルクは良いけれどね。だけど、チヤの原材料って、茶葉なんか入っていないわよ。みじん切りにした枝を、機械で磨り潰した物体じゃないの」
ばっさりと言い切っている。
「そんな、枝の煮汁を飲むよりも、まともな茶葉で淹れた紅茶を、飲むべきだと思うだけよ。第一、紅茶の枝って、山羊も食べないわよ」




