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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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ルネサンスホテル

 ホテルは湖のほとりに建っていた。その湖は雨に煙っていて、対岸がかすんで良く見えない。向こう岸は山になっているようで、恐らくは、そのままアンナプルナ連峰につながっていくのだろう。


挿絵(By みてみん)


 ホテル自体は、外壁や内装が赤レンガ造りの落ち着いたものだった。今は雨期の雨に濡れているので、さらに落ち着いた風情がある。三階建てで、部屋数は二十。庭は広く、多くの花が咲き誇っている。観賞木にも花が咲いているものが多い。ランを植えた鉢も多くあり、それらも花を咲かせている。

 協会長は、このホテルのオーナーでもあったようだ。ホテルの受付カウンターのスタッフが、彼を協会長やオーナーと呼んで、合掌して挨拶をしている。チェックインを済ませたゴパルが、協会長に振り向いた。

「では、部屋に荷物を預けてきますね。その後で、いくつか質問したい事があるのですが……三十分間ほど、お時間を頂いても構いませんか? ラビン協会長様」

 協会長が、ランの鉢にハンドスプレーで霧吹きをしながら、振り返って微笑んだ。

「はい、喜んで。ですが、様付けは、止してください」


 ホテルのスタッフに案内された部屋は、二階の角部屋だった。このホテルにはエスカレータやエレベータは備えつけられていないので、最上階に泊まると、階段の上り下りで苦労する。そのため、この角部屋にしたのだが、景色は十分のようだ。

 こういった地方のホテルのスタッフは、少年を使っている事が多いのだが、ここは成人の男性スタッフだった。

 彼にチップを渡して、名前を聞き、部屋の見張りを含めた管理を頼む。ホテルには通常、カフェやレストランが付属しているので、お茶や軽食を頼む際の窓口になってもらうのである。

 スタッフが軽く会釈して、部屋から退室するのを見送り、部屋の中を見回した。雨に濡れたメガネを外して、ハンドタオルで拭く。

 北側と東側に、大きな窓と簡易バルコニーがある。北側には雨に煙って対岸が見えない湖が広がっていて、東側には舗装道路を挟んでホテル街が見える。ホテルはどれも赤レンガやコンクリートの鉄筋造りで、四階建てが多い。もちろん、風俗営業は禁止されている。

 雨に濡れて所々が川になっている舗装道路では、道端で水牛や雌牛が、草を食んでいるのが見える。観光客はそれなりに居て、避暑でやってきたインド人観光客が、そのほとんどを占めているようだ。


 景色を一通り眺めたゴパルが、キャリーバッグを机の横に置いた。その側には、首都から陸送してきた段ボール箱が三個届いていた。KLが入っている箱だ。

「そうか。北インドは、今は気温四十度だったっけ。三十度くらいのポカラは避暑地として良いんだろうな」

 窓には、遮光用のブラインドが付いていた。東窓からの朝日を防ぐためだろう。

 キャリーバッグを机の脚に鎖でつなぎ留め、段ボール箱の中身を確認する。箱の外側は所々破かれていて、凹んでいるのだが、中のKL容器には損傷が無かった。荷運びの配達人が、箱をぶん投げたのだろう。

 KLが無事にポカラに到着した事を、スマホで首都の教授に知らせる。

「さて……売り込むとするかな。まあ、売れ残ったら、トイレにでも流すか」

 顔を洗面所で洗ってから、部屋をもう一度見回した。   

 天井や机の照明は、全て発光ダイオードになっている。棚の上にはテレビとティーセットがあり、小さな冷蔵庫もある。ベットとイスは素朴な作りで、それは壁に掛けられている数枚の小さな絵も同様だった。

「さて、協会長……さん、を待たせたままだと良くないな。ロビーへ急ごう」

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