発泡水
協会長がゴパルに、給仕長を紹介する。
「ゴパル先生。彼は、このレストランの給仕長をなさっている、ギリラズ・グルンさんです。心を読む特技をお持ちの方ですよ」
顔つきがグルン族のものだったので、なるほどと納得するゴパルだ。黒いベストには彼の名札と、ソムリエの証がキラリと光っている。この店で使う、ワイン等の酒類も管理しているのだろう。
そのギリラズ給仕長が、穏やかに微笑んだ。
「そうであると、良い仕事ができるのですが。まだまだ未熟ですね。発泡水は、どれにいたしましょうか?」
協会長が、呪文のような商品名を口にした。それを聞き取った給仕長が、優雅な所作で厨房へ戻っていく。
アバヤ医師が、隣の席からゴパルに告げた。
「なーに。ただの炭酸水だ。ワシが飲んでいるヤツと同じだよ」
確かに、グラスに注がれたのは、炭酸水だった。ただ、炭酸は非常に弱くて、飲みやすい。給仕長が持って来て、ゴパル達の前で栓を開けた発泡水の瓶を、ゴパルが手に取って眺める。きれいな青色のガラス瓶だ。
「炭酸水という事は、冷泉から採取しているのかな。それとも、酵母菌が作用して……いや、そんな事はないか」
協会長が、一重まぶたの目を細めて、にこやかにゴパルを眺めている。
「この発泡水は輸入物なので、品薄になる恐れがありますね。ですので、ポカラ工業大学のスルヤ教授にお願いして、ネパール国内で源泉を発見できないかどうか、調べてもらっています。国内に無ければ、ポカラの地下水に炭酸ガスを封入しようかと」
まあ、原理上は炭酸水を作るのと同じだろうな、と思うゴパルだ。




