バナナとパパイヤ
ネパール大バナナは、名前の通り、ネパールで栽培されているバナナである。一般のバナナよりも大きく株が育ち、バナナの実も大きい。赤パパイヤも同様だ。
バナナは土壌の病原性カビによって、パパイヤはウイルスによって、世界的に収穫量が激減して、耐性品種に置き換わってきている。
カルパナが憂いを帯びた視線を、バナナとパパイヤ畑に向けた。
「今はどこも、遺伝子組み換えや、ゲノム編集を施した品種に置き換わっています。そのおかげで、ここポカラでも栽培できるようになっていますね。ゴパル先生、その新しい品種ですが、隠者様は強く反対なされています。新しい品種は、危険なのでしょうか?」
ゴパルが首を傾けて腕組みをした。
「そうですね……食の安全性については、十分と判断できるまで保証されていますよ。ですが、あくまでも統計的に安全という保証ですね」
そして、慎重に言葉を選びながら話を続けた。
「遺伝子組み換えでは、その病気に耐える遺伝子を導入します。普通は、野生種の遺伝子が使われますね。ですので、風味が変化してしまう場合があります。普通の雑草は、美味しくないですからね。ゲノム編集では、眠っている遺伝子等を起こしたり、突然変異を起こさせたりします。これも風味が変化してしまう場合がありますよ」
カルパナは、この数日間の間に勉強したようだ。おおよそ理解できている表情をしている。
一方、農家の人達には、専門的過ぎたかと反省するゴパルであった。もっと簡単に要約する。
「新しい品種は、不味くなる場合があります。ですので、この谷で栽培している、古い品種のバナナやパパイヤは、美味しいと評判になると思いますよ。大事に育ててくださいね」
どよめきが農家の間から起こった。
カルパナが微笑みながら、ゴパルに話しかける。
「この谷には、滅多に人が入ってきません。放牧牛や水牛、それに山羊も入らないように、柵を設けています。おかげで、この谷では牧草を育てて、刈って売る事ができていますね。重要な現金収入源です。レカちゃんの酪農場が、ほぼ全量を買い取っていますよ」
確かに、バナナとパパイヤの間には、青々とした数種類の牧草が育っていた。イネ科とマメ科で、収穫時期が異なる品種を、輪作しているようだ。牧草の輪作である。
そういえば、パメの二十ロパニの段々畑でも、牧草が栽培されていたなあ、と思い起こすゴパル。
カルパナが、穏やかな口調のままで話を続けた。
「牧草を輪作すると、土が肥沃になってくるのですよ。それでもバナナとパパイヤ栽培には足りていませんが。ですので、この谷でのバナナとパパイヤの収穫量は、安定していますが少ないままです」
ゴパルがうなずいた。肥料を運び入れるには、この崖は危険だ。実際、近くの水田の畝が、あちらこちらで崩れ落ちている。水牛や雌牛が崖に近寄らないように、簡単な木柵も作られていた。
なので、農家が谷に降りて、ゴパルとカルパナのために、バナナとパパイヤを取って来ようとしているのを、慌てて制止した。
ゴパルが頭をかいて、一つ提案した。
「口径の大きなパイプを引いて、液肥を使うと良いかもしれませんね。レカさんの酪農場排水や廃水が、上手く処理できれば、液肥として使えるようにできるはずです」
谷底のバナナとパパイヤ園を、じっくりと見つめる。
「川が近いので、砂質土ですね。水はけが良好だと思います。ですので、少々散布し過ぎても大丈夫ですよ。バナナとパパイヤは、肥料をたくさん吸収しますからね」
バナナとパパイヤは、一年じゅう収穫できる。気をつけるのは、低温だが、ポカラは亜熱帯なので低温の心配は不要だ。台風等による強風の心配も無い。
ここまで話したゴパルが、注意事項を一つ述べた。
「ですが、肥料を多く使うと、マメ科の牧草の生育が悪くなる恐れがあります。バナナとパパイヤの収穫量を増やすのであれば、イネ科の牧草だけに栽培暦を組み替える必要があると思います」
ゴパルがスマホで、谷の写真を撮影してから、カルパナに礼を述べた。
「ご案内ありがとうございました。そろそろポカラへ戻りましょうか」




