レカナート市
さらに街の中を東へ走ると、幹線道路に出た。橋を渡るとネパール軍の駐屯地に出る。駐屯地では、大勢の軍人がランニングをしていた。さすがに皆、体格が優れている。
インド陸軍や英国軍での募集が減ったので、今ではネパール軍の入隊試験も、かなりの難関になっているらしい。
カルパナが、橋を渡った先の坂で、エンジントラブルを起こして停車している、古いトラックを見つけた。ネパールでは故障車には、細い木の枝等を差しておく習慣がある。文字通り、草が生えている状態である。
その草が生えた旧式トラックを、バイクで追い抜きながら、ゴパルに話しかけた。
「ここからは、ポカラ市を抜けて、レカナート市に入ります。養豚場が近くにできました」
レカナート市といっても、ポカラのような街ではなかった。普通の田舎町が点在している風景である。これならば、養豚団地も建設できるだろう。そのくらいの田舎である。
バイクの荷台に乗っているゴパルが、少し荒れ気味の眉をひそめた。
「……悪臭が、幹線道路にまで漂っていますね」
カルパナも感じ取っている様子で、臭いが漂ってくる方向に顔を向けている。
「そうですね……以前よりも酷くなってきているような……わ!」
バイクが跳び上がった。
橋の前後や、軍、病院、学校等の前では、道路にポコリと、カマボコ状に盛り上がった障害物を設けている。
ハンプと呼ばれるのだが、車に対して、強制的に徐行運転をさせる目的だ。高さ十五センチほどの盛り上がりで、黄色い線等を描いて注意を促しているのだが、カルパナは見落としてしまったようだ。
バイクの後輪も路面から浮き上がって、二メートルほど先に着地した。
ガシャン!
大きな衝撃が、ゴパルの尻を直撃する。座布団を敷いているのだが、それでも、かなりの衝撃だ。
ちょうど軍駐屯地の正門の前で軍人も多く、路面駐車しているトラックも数台あったので、目撃者が多数出てしまった。
正門前に立っていた階級の高そうな軍人が、ニヤニヤして冷かしてくる。
「おいおい、カルパナちゃんー。いい加減に、そのハンプを覚えろよお」
他の偉そうな軍人も冷かしてきた。
「今日は、彼氏とデートかい? 彼氏君、バイクの免許くらい取っておけよー」
カルパナが愛想笑いをして、バイクで走り抜けていく。もう一つあるハンプは、速度を落としたおかげで、無事に乗り越える事ができたようだ。ゴパルが振り返り、今はもう後方に見えるだけの駐屯地の正門を眺めた。
「あの軍人さん達も、カルパナさんのお知り合いですか?」
カルパナが今度は振り向かずに答えた。
「はい……サビちゃ……サビーナさんの会員制レストランの常連客ですね。有機野菜や、レカさんの酪農場の乳製品なんかも、買ってくださっていますよ」




