ポカラの東
バドラカーリー寺院は丘の上に建っているのだが、北向かいには高い山があり、その中腹に大きなチベット寺院が見えた。かなり立派な寺院で、大勢のチベット僧が道を行き来している。
それを見ながら、ゴパルが腕組みをした。今はもう、ヘルメットを被っているので、頭を手でかく事ができない。
「ラビン協会長さんに聞いた方が良いかな」
カルパナが同意した。バイクのエンジンを点火する。
「そうですね。チベット僧には階級があります。お礼を申し述べるのであれば、より高位の僧にした方が、効果的だと思いますよ」
そして、東の空に顔を向けた。
「この辺りには、他に、イスラム教徒が住む区画もあります。私が使う農具は、そこの鍛冶屋にお願いしています。元はヒンズー教徒だったそうですが、今はイスラム教に改宗していますね」
そう言って、バイクを走らせて東へ向かった。
町の景色は、鉄筋コンクリート造りの屋根の無い民家ばかりで、変化は無い。
しかし、白いツバ無し帽子と、足首までの長くて白い長袖シャツの姿の男が増えてきた。女性は、頭にヒジャブと呼ばれる、髪と耳と首を覆う長い布を巻いている。髪を一切見せてはいけないので、ヒジャブの下に小さな帽子を被る女性もいる。
緑色をした二階建てのモスクを、通りの向こうに見ながら、カルパナがバイクを走らせる。ちょうど、鍛冶屋の前を通って、店員達に軽く左手を振って挨拶した。
店は伝統的な鍛冶屋の造りで、農具の鎌や鍬等を売っている。奥には工房もあるようで、金属を叩く甲高い音が響いていた。
店の主は、チヤ休憩中だったようで、店の前で寛いでいた。バイクで走ってきたカルパナを見つけて、ニッコリと笑って手を振った。
作業着姿で、スス等で汚れた丈夫そうな長袖シャツとズボンの姿だ。ただ、足元はサンダルで、手袋もしていないが。
「やあ、カルパナさんじゃないか。今日はどうしたんだい?」
カルパナが店の前で一時停車して、ヘルメットのサンバイザーを上げた。
「こんにちは、アブドラさん。今日は、後ろにゴパル先生を乗せて、ポカラをご案内しています。お仕事、頑張ってくださいね。私も、鎌と鍬の研ぎを、また後日お願いする予定です」
アブドラと呼ばれた、店主が白い歯を見せて笑った。
「おう。了解したぜ。じゃあ、デートを邪魔しちゃ悪いな。俺は仕事に戻るとするか」
きょとんとするカルパナとゴパルであった。少し間をあけて、顔を見合わせて苦笑する。
「では、さらに東へ行ってみましょうか、ゴパル先生」
「はい、お願いします、カルパナさん」




