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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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トマト苗 その二

 そんな話をしている間に、トマトの苗箱への散水が完了したようだ。カルパナが水を止めて、白い寒冷紗かんれいしゃを苗箱の上に、そっとかけていく。寒冷紗とは、薄く柔らかいプラスチック製の網シートの事で、主に農業用の遮光目的で使われている。

 ゴパルも手伝いながら、空模様を見上げた。まだ雨雲が広がっているのだが、南の空では晴れ間が見えている。

「日焼け防止のためですか? カルパナさん」

 カルパナが、そっと寒冷紗を苗箱に被せながら、うなずいた。

「そうですね。ずっと雨でしたから、急に晴れると、苗が日に焼けてしまいます。ですが、まだまだ雲が多いですし、にわか雨も降りますから、日射量は少ないままです」

 カルパナもゴパルに続いて、晴れ間が見える空を見上げた。ハウスには、まだ日差しが届いていない。

「今は、遮光率五十%の白い寒冷紗を使います。黒い寒冷紗ですと、遮光率が七十%以上になってしまいますので、苗に必要な日射量にならないのですよ」

 ゴパルが納得しながら感心する。

「なるほど。細やかな配慮が必要なのですね」

 カルパナが微笑んだ。

「そうですね。苗の作り方で、収穫量や品質が大きく異なりますね。とても大事な期間ですよ」


 続いてカルパナが、ハウス内に吊り下げられている、デジタル温度湿度計を確認する。ちょうど苗箱がある高さに合わせているので座った。

「温度や湿度が高くなると、種苗店に警報が届くようになっています。ポカラは亜熱帯なので、急に晴れると、ハウス内が暑くなって、蒸れてしまいます」

 カルパナがゴパルに説明を続けながら、袖で汗を拭いた。ハウス内部は気温三十度以下なのだが、やはり湿度が高くて風が通りにくいせいか、暑い。

「発芽に必要な気温は、二十五度から三十度ですから、結構、気を遣いますね。発芽後も、少しの間は、気温を高めに調節しないといけません。育ってくると、気温を下げます」


 そして、ハウス内に山積みになっている、黒いプラスチック製の育苗容器を指さした。みな、きちんと洗ってある。

「トマト苗の本葉が、二、三枚になるまで育ったら、あの育苗容器に仮移植します。容器の直径は九センチですね。しばらくの間、それで苗を育ててから、畑に移植します」

 ゴパルが少し首をかしげて、カルパナに聞いた。

「カルパナさん。確か、自然流の有機農法では、種を直接畑にまく、と聞いた事があるのですが。こういった、苗箱やポット容器を使う人って多いのですか?」


 カルパナが頬を緩めた。ハウス内の換気が終わったらしく、巻き上げていたシートを元に戻していく。しかし、完全には下ろさないようだ。大きな隙間を設けている。

「私も、トマトの自家採種をする時は、苗箱やポット容器を使いませんよ。ですが、こういった商業栽培になると、種を畑に直播きするのは難しいですね。発芽が揃わないので、苗の生長に大きな差が出てしまうのですよ。トマトの花が咲く時期も、揃わなくなりますね」

 巻き下げたシートの隙間を確認して、ゴパルに告げた。

「南の空が明るいですので、このくらい開けておきましょう。私の栽培方法は、このような感じです。KLの使い方の参考になれば良いのですが……」

 ゴパルがニッコリと微笑んだ。

「非常に参考になりますよ。苗箱や育苗土でも、KLを使ってみましょうか。徹底して使った方が、効果も出やすいですから」

 カルパナがうなずく。そして、足をハウスの出入り口に向けて、ゴパルに振り返った。

「分かりました、ゴパル先生。では、せっかくですので、段々畑も見てみましょうか。ニンニクの畑の準備を、始めています。今回は、KL培養液が出来たばかりで、間に合いませんでしたが……次回の栽培で使ってみようと思います」

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