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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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一つの提案

「ゴパル先生。ポカラは雨が多い地域です。キノコ栽培に適しているのではありませんか?」

 ゴパルが、情報を首都に送信して、垂れ目を向けた。実に淡々とした表情である。

「キノコに依りますよ。ですが、高湿度を好む種類は多いですね。ポカラでは、どのようなキノコを栽培していますか?」

 首都の博士課程のラメシュ達から、基礎的な情報は得ているのだが、現地情報も必要なのだろう。


 ビシュヌ番頭が指を曲げて数え始めた。小指の付け根の関節に、親指の先を当てる。

「まず、ヒラタケですね。亜種でヒマラヤヒラタケもあります。別名オイスターマッシュルームですね」

 小指の第二関節に、親指の先を移動した。

「次に、フクロタケですか。この二種類のキノコは、農家でもよく栽培されています」

 続いて、小指の第一関節に、親指の先を移動した。これはネパール人やインド人がよくやる数の数え方だ。片手で十六までカウントする事ができる。

「難易度が跳ね上がりますが、マッシュルームもですね」

 ゴパルが質問した。

「すいません。そのマッシュルームの色は何ですか? 白色ですかね」

 ビシュヌ番頭が肯定した。

「はい。白色ですね」

 次に、薬指の根元の関節に親指の先を移動して、動きが止まった。

「他のキノコは、失敗しているようです。エリンギやシイタケを試した農家や、普及団体があるのですが、安定生産は出来ていませんね。こんな所です、ゴパル先生」


 ゴパルが素直にうなずいた。想定の範囲内だったようだ。

「なるほど、とても重要な情報になりますね。ありがとうございます。KLが使えるキノコもありますね。まずは、一番栽培が容易なヒラタケとフクロタケから、使ってみましょうか。生産量を安定化させるための一助になると思いますよ」

 それから、とゴパルが補足した。

花卉かき花木かぼくにも、使えると思います。まずはトマト等の野菜や、キノコから始めようと思いますが、余裕ができたら、ランや切り花、鉢植えでも試してみましょう」

 花木かぼくは、観賞用の花を咲かせる樹種の総称だ。花卉かきは、主に花を咲かせる草の総称になる。


 ビシュヌ番頭によると、チャパコットでは主に、ランの他に、亜熱帯性の花卉かきや、観賞木を栽培しているとの事だった。一方、標高千九百メートルのナウダンダでは、高山性のランと、温帯花卉おんたいかきや、観賞木をハウス栽培しているらしい。儲けにつながるのは、やはりランであるようだ。

 ゴパルがスマホにメモして、納得した。

「なるほど。亜熱帯性気候と温帯性気候とが隣り合っているのですね。キノコ栽培では、気温の上げ下げが重要になりますから、この高低差を利用すれば、燃料代や電気代を節約できそうです」


 そこへ、ようやく事務仕事を終えたカルパナが、小走りで戻ってきた。

「お待たせしました。あ、まだチヤを飲み終えていませんでしたか」

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