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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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行動計画と基礎情報

 ヒマラヤ山脈は、一枚の壁では無い。いくつかの連峰の集合体の名称である。そのため、連峰と連峰との間には、谷や低い山がある。さらに、ヒマラヤ山脈の南のインド側には、標高三千メートル級のマハーバーラット山脈が伸びている。

 今回は、その連峰の一つ、アンナプルナ連峰の氷河へ向かう計画だ。豊穣の女神の名前を頂く連峰の最深部には、いくつかの氷河がある。アンナプルナ内院と呼ばれる盆地で、一般の観光客は、申請をすれば訪れる事ができる。盆地の最高地点はアンナプルナ ベースキャンプと呼ばれる民宿街だ。標高が四千百メートルになるので、高山病にかかる者も出てくるが。

 ゴパルもここまで登り、低温蔵を建設できるような候補地を探して、地形を簡易測量する計画だ。その測量結果を添付して、クシュ教授が最終的な低温蔵建設の企画を提示する手筈になっている。根回しは完了しているそうなので、建設の認可と、建設開始も早いだろう。ゴパルには、「現地作業員の目星をつけるように」と、クシュ教授から、追加指示を受けていた。

 飛行機では氷河の麓まで行けないので、ポカラ国際空港に降りて、そこから車と徒歩で氷河に向かう事になる。ポカラから氷河までは、三泊四日の旅程となる。道に慣れれば、二泊三日で行けるようになるだろう。


 ポカラは首都と同じく、ポカラ盆地の中にある。標高は九百メートル程で、気候は亜熱帯に分類される。盆地ができてから、何度か地形が隆起したために、階段状の河岸段丘がポカラのあちこちに見られる。

 そのポカラ市であるが、実はかなり新しい街だ。亜熱帯性気候で多くの沼沢があったので、昔はマラリアが流行していたのだ。ポカラという地名も、池のポカリから由来している。

 そのため、最初はインドと接する平野部から移住してきたヒンズー教徒と、商業を営む少数のネワール族だけが暮らしていた。彼らヒンズー教徒は、今でもポカラ人口の多数派で、地主になっている者が多い。

 その後、国連機関によるマラリア撲滅事業が始まり、それが成功した。さらに、中国チベットとの交易路が封鎖された事もあり、高地に住む人々が、ポカラへ移住を開始した。

 特に、交易路を支配していたチベット系のタカリ族と、ネパールの独立戦争で主役になったグルン族、マガル族の退役軍人が、大勢住む事になり、急速に都市化が進んだ。その後、首都よりも温暖な気候なので、富裕層も移住を開始した。さらに学校や、大学が多く設立されたので、学生の街にもなって、今に至っている。


 現地の基礎情報を再確認しながら、ゴパルが軽く背伸びをした。飛行機が着陸態勢に入ったと、機長からアナウンスが出る。今でも、窓の外は雲だらけで何も見えず、機体は相変わらず揺れている。

「確か、ポカラの土地神が、ドゥルガ様だったかな。マラリアが相当酷かったんだろうなあ。ビンダバシニ寺院の主神はドゥルガ様で、ポカラを代表する寺院だしね」

 ドゥルガ神は、戦いの女神である。一方で、結婚の祝福を授ける女神でもある。

「そして、マラリア撲滅という、科学技術の恩恵を受けて誕生した街でもある、か……」

 今では、人口が三十万人にも達しようとする、ネパール屈指の大都市だ。それでも、首都カトマンズの十分の一程度しかないが。


 不意に視界が広がった。雨雲の下に降りたのだろう。ポカラ盆地に差し掛かったようだ。

 盆地を取り囲む標高二千メートル級の山脈は、尾根筋が雨雲の中にあるので見えない。急激な開発の影響なのか、禿げ山が目立つ。過剰な木材の伐採と放牧、それに農地造成のためだろう。ちなみに、集落は尾根筋に集中する伝統だ。

 平地である盆地も、水田で覆われているのだが、道路沿いには多くの民家が建ち並んでいる。

 ただ、インドからポカラへ続く幹線道路は、首都と違って、土砂崩れの影響は出ていない様子だ。道路を走っている車や、バイクの数が多い。燃料不足は、首都ほど酷くなさそうで安堵する。


 間もなく、ポカラ国際空港の滑走路が視認できた。空港は河岸段丘の縁にあり、東と南側は、落差十数メートルほどの階段状の崖になっている。その谷には、雨期の豪雨で大増水した川の濁流が流れ、大いに自己主張をしていた。地図表記では、白ガンダキ川という、アンナプルナ連峰から流れている川だ。地元では、単に『白い川』と呼ばれているようだが。

 スマホの観光情報によると、白ガンダキ川は、東側を流れる川は白く濁った色で、南側は濁らず青いのだが、今はどちらも区別がつかない。西にはポカラの街が広がっていて、雨に煙った湖も見える。

 ゴパルが乗った旅客機が、プロペラエンジンの回転数を調節しながら、空港の上空をぐるりと旋回し始めた。

 ガコン! ガコン!

 足元に振動が走り、着陸用の脚が出て、それらが固定された事を知る。そろそろ着陸だ。

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