ミネストローネスープ
説明の内容は、次のようなものだった。
トマトは一個を用意して、洗って汚れを落としておく。湯剥きをして一口サイズに切ったトマトから、ヘタと白い芯と種を取り除く。
玉ネギとキャベツも、傷んだり変色している部分を取り除いて、それぞれ二十グラムほど用意する。用意したそれを、よく洗い、汚れを落とす。ベーコンも二十グラムほど用意しておく。これらも、トマトと同じく、一口サイズに切っておく。
サビーナが、軽く肩をすくめた。
「野菜とベーコンは、湯通しして、アクや臭いを消しても良いんだけど……ま、食堂メニューだから、別にしなくて構わないわよ。これがコンソメスープだったら、温厚なサビーナ様でも激怒するけれどね」
協会長が、思わず首を引っ込めた。カルパナとレカにアバヤ医師達が、クスクスと笑っている。昔、このピザ屋で、劣悪なコンソメスープを出していたのだろう。
コンソメスープは、スネ肉を数キログラムも使い、細かく切った野菜と卵白を加え、沸き立たないように細心の注意を払って作る、フランス料理の粋とも言えるものである。恐らくは、このミネストローネスープを、コンソメスープと表記していたのだろう。
余談になってしまったが、それ以前に、湯通しと言われても、よく分からないゴパルであった。
ちなみに、フランス料理の伝統的な技法では、湯通しという技法では無く、ブランシールという技法を使う事が一般的だ。
しかし、これでは翻訳に困るので、サビーナが似たような技法の、湯通しという言葉を使っている。
ブランシールは、水に材料を入れて、火をかけていく手法なので、厳密には湯通しでは無い。湯が沸騰したら、火から外す点も異なる。
そもそも湯通しや油通しは、中華料理の技法だ。チベット系民族の料理では、中華料理の技法を使う事があるので、比較的馴染みがある。
さて、そんなゴパルの表情には、お構いなく、湯通しについての説明はせずに、料理の話を続けるサビーナである。
鍋に一口サイズに切った材料を全て入れ、水を三百ミリリットル足す。最後に固形コンソメを加えて溶かし、ちょうど良い味付けにしてから、鍋を火にかける。
「火が通って煮えたら、塩コショウして味を整えて完成。トマトは、野菜として使うけれど、ダシも出るのよね。だから、トマトは一個にこだわらずに、何個でも好きなだけ使えば良いわ。超絶簡単でしょ? でも、これをコンソメスープだと言ったら、ぶっとばすわよ」
サビーナがスープをすすりながら、説明を終えた。再び、協会長が首を引っ込めている。
ゴパルが、素直に同意した。
「そうですね。これでしたら、私でも作れそうです」
アバヤ医師がニヤリと笑って、ゴパルに告げた。
「甘いな、ゴパル君。それだけでは、この味は出ないぞ。こいつには、辛味を抜いた青唐辛子が、ダシのために使われておる。唐辛子は、客に出す前に取り除かれておるがね」
アバヤ医師がドヤ顔になってきた。
「さらに、黒コショウはスリランカ産で、ホテル協会が直輸入したものだ。市販品はベトナム産が多いのでな、風味が異なるんだよ」
面白くなさそうな顔になるサビーナであった。
「アバヤさん。本当に除名するわよ」
愉快そうに笑うアバヤ医師である。その彼を放置して、サビーナがゴパルに微笑んだ。
「その通りだけど、あたしが説明した方法でも、それなりに美味しいから安心しなさい」




