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アンナプルナ小鳩  作者: あかあかや
氷河には氷があるよね編
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ポカラ便

 国内便のターミナルは、雨期の閑散期という事もあり、搭乗客はそれほど居なかった。すぐに航空会社のカウンターでチェックインをして、キャリーバッグを預ける。

 その後、荷物を預けた本人が、空港の担当係官の前で、航空会社に預けた荷物と、機内持ち込み用の荷物を全て開示する。エックス線等を使う検査機器は、節電のためか使われていない。開示物を見た係官が問題無しと判断して、初めて荷物を飛行機の貨物庫に収める事ができる。また、機内持ち込み用の手荷物も、機内へ持ち込む事ができる。

 こういった面倒な手続きは、内戦が続いた影響だ。そのため、KLのような微生物資材は、別途陸送で運んでいるのである。液体は、航空貨物として預ける事が難しいのだ。

 この手続きが終了すれば、後は待合席に座って、飛行機への搭乗案内が出るのを待つ。

 ここでも節電対策を始めたようで、待合室や航空会社のカウンターの照明は、ほぼ全て切られていた。電光掲示板や、液晶画面での飛行便情報も、全て電源が切られている。

 そのため、国内便ターミナルから飛行機まで、乗客を乗せるミニバスの助手が、大声で客に呼びかけるシステムになっていた。ゴパルが乗る便の場合は、「ポカラー!」という呼びかけになる。航空会社によっては、行き先を記した看板を用意する所もあるが、ここはそうでは無かった。


 その呼びかけに従って、ターミナルを出て、飛行機まで向かうミニバスに乗り込む。乗客は数名だった。

 駐機場には、数機のプロペラ機が雨に濡れていた。その内の一機は、右のプロペラエンジンから、大量のオイルと燃料を噴き出していて故障中だった。駐機場のアスファルト面に、黒い池ができている。その機体でなくて良かったな、と思うゴパルと数名の乗客であった。

 乗客の一人は、敬虔なヒンズー教ビシュヌ派のようで「ヘラム、ヘラム」と、ラーマ神に感謝を捧げている。もう一人は、敬虔なチベット仏教徒のようで「オンマニペドマニごにょごにょ」と、数珠をいじりながら、仏に感謝を捧げていた。


 小雨に濡れながらポカラ行きのプロペラ機に搭乗する。十数名乗りの小さな飛行機で、片側二列の座席なのだが、女性のキャビン‐アテンダント(CA)が一名いる。航空会社によって服装が異なるのだが、この会社はチベット系の民族衣装をアレンジしたものだった。超厚手の浴衣に、前掛けエプロンをつけた印象の服装だ。足元はサンダルでは無く、低いヒールの革靴になっている。

 しかし、このCAがする仕事と言えば、飴玉や、紙コップに注がれたジュースを、乗客に配る程度なのだが。気圧差が気になる乗客には、耳を塞ぐための綿も配られる。

 席に座って数分もすると、機長のアナウンスが流れ、離陸の準備が始まった。プロペラ機で荷物も少なく軽いので、ふんわりと離陸する。離陸後の加速度もそれほど強くなく、ふんわりしたままで飛行を続ける。

 一応、ゴパルは窓側の席を取っていたのだが、予想通り雨雲の中に突入したので、何も見えなくなった。窓ガラスを流れていく雨だれしか見えない。ヒマラヤ山脈はカケラも見えず、普通の山も、それどころか地面すら目視不可能だ。

 その分、雲の中なので気流が荒い。下から突き上げるような上昇気流に乗ったり、反対に下降気流に落とされたりする。雲間の雷光も、何度となくゴパルの横顔を照らした。


 ちなみに、国内便路線では、まだ地上レーダー施設が網羅されていない。そのため、これまでは荒天時の飛行ができなかった。今は、インドが打ち上げた八基の精密測位衛星が、常時四基以上、上空を飛んでいる。それらによって、山々に衝突する事なく飛行する事ができている。

 インドの気象衛星も静止軌道上を飛んでいる。そして、観測情報も十分間隔で、管制塔に送られている……のであるが、残念ながら今は節電中だ。人員も不足している。

 結局、気象情報は機長には提供されておらず、昔ながらの有視界で、風の流れを勘で読みながらの飛行を続けていた。位置情報は、機長と副機長が持つスマホで、準リアルタイムで得る事ができている。

 当然ながら、機内の客室内では、全ての電子機器の使用が禁止されている。そのため、乗客はスマホをいじって時間潰しをする事ができない。

 懸命に回転を続けているプロペラエンジンを機内から眺めながら、ポカラでの行動計画について、頭の中で再確認する事にしたゴパルであった。飛行時間は三十分ほどなので、確認を済ませても、それほど退屈する事は無いはずだ。

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